新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

女性たちの東シナ海海戦

 2015年発表の本書は、元航空自衛隊員だった数多久遠(あまた くおん)の架空戦記。意味ありげなペンネームである。ネット作品「日本海クライシス2012」でデビューし、リアルな冒険小説作家として知られるとある。

 

 本書の舞台は尖閣列島周辺の東シナ海、中国海軍が着々と戦力を整えつつあったころで、日本もこれに対抗して新兵器を開発配備していたという設定。注目されるのは新兵器もだが、闘う日本女性たちの姿である。初の女性内閣総理大臣になった御厨首相、航空自衛隊の倉橋二佐、中央情報保全隊の杉井一尉、さらに主人公とも言える防衛省技術研究本部の木村美奏乃技官らである。

 

 5年前、東シナ海で海壁に衝突したとされるおやしお級潜水艦「まきしお」では、美奏乃の婚約者真樹夫だけが亡くなっている。美奏乃は敵のソナーから艦を隠すことのできる新兵器ナワールを開発し、その試験航行に同行することになった。

 

        

 

 試験艦は新鋭のそうりゅう級「こくりゅう」、縁か偶然か「まきしお」事件の時の副長荒瀬が艦長を努める。ただ試験海域では中国海警局や海軍艦船が活動していて、これを監視していた護衛艦「あきづき」が沈められてしまった。探知できなかった潜水艦の仕業らしい。さらに中国海軍は空母「遼寧」の艦隊を尖閣諸島に近づけてきた。

 

 「こくりゅう」への指令は一転、「遼寧」を撃破せよと変わる。ステルス性を活かした「こくりゅう」は、首尾よく「遼寧」に大打撃を与える。しかし僚艦「ずいりゅう」は、未知の潜水艦に沈められてしまった。この艦は、旧ソ連のアルファ級を改造した「長征13号」、バブルで船体を包むことで最大60ノットの速力が出せる。「こくりゅう」と「長征13号」は互いを認めながら一旦は退き、再び東シナ海の覇権を争うことになる。政治的にも、どちらのフネが生き残るかで両国の勝負が決まるのだ。

 

 ちょっとSFっぽいけれど、超高速潜水艦とステルス潜水艦の戦いは、なかなかの迫力でした。