新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

エジンバラでハイド氏を追う

 以前スティーブンソンの「ジーキル博士とハイド氏」を紹介したが、英国の古典であるこの作品をモチーフにした作者も少なくないようだ。イアン・ランキンもその一人で、昨日紹介したデビュー作「紐と十字架」には何ヵ所かこの書が出てきた。第二作である本書(1990年発表)には、よりその影響が大きくなっている。裏表紙に「ジーキル・・・」からの引用があり、原題も「Hide & Seek」ハイド氏を探せともとれる。

 

 前作で自らの過去からやってきた犯罪者を倒したジョン・リーバスは、一匹狼ながら警部に昇進した。ただ、まだ上司であるワトソン主任警視との仲はぎくしゃくしている。エジンバラも都会だから、スラム街のようなところはある。古くなり空き家になった公営住宅には、定職を持たない若者たちが集まっていた。水も電気もないのだが、雨露はしのげる。

 

        

 

 そこに定住(!)しているロニーという若者は「隠れろ、隠れろ」が口癖だった。麻薬の常習者であり、誰かが襲ってくると被害妄想を抱いていたのかもしれない。しかし彼はその住宅で死体となって発見される。捜査にあたったリーバスたちは、死体の側の蝋燭の燃えカスや壁に書かれた五芒星をみつけ、宗教的な殺人かと疑う。

 

 死因は注射した麻薬液に殺鼠剤が混じっていたこと、誰かが毒入りの麻薬をロニーに渡したらしい。ロニーが黒魔術を調べていたことや、大事にしていた高級カメラがないことなど、手がかりはあるのだがリーバスには別ミッション(麻薬撲滅キャンペーン)もあって、捜査が思うように進まない。

 

 ロニーのガールフレンドや出入り先をあたるため、リーバスは独断でホームズ部長刑事を呼び出す。若いエリートのホームズ刑事は反発しながらもリーバスの捜査を手伝い始める。地道に捜査に打ち込みたいリーバスにワトソン主任警視は、リーバスを看板にして社交界などにも売り出そうとする。麻薬キャンペーンもその一環のようだ。

 

 再三「ジーキル・・・」からの引用があり、スティーブンソンへの傾倒がうかがわれる作品。SAS出身の異色の刑事であるリーバスだが、今回は荒事はなし。解説では「エジンバラの街の描写が優れている」とあるが、それもあまり感じなかった。

 

 本国では人気のシリーズで、1ダース以上の作品があるようです。しかし僕としては、まだ良さをつかみかねていますね。