新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

エジンバラ警察1890

 1988年発表の本書は、ノンフィクションからゴシック・ロマンまで、幅広い作風で知られるアランナ・ナイトの歴史ミステリー。舞台はヴィクトリア朝時代のエジンバラスコットランドの首都でもあり独自の文化が栄えた街だ。作者の60作ほどの作品中、17作に登場するのが本書の主人公ジェレミー・ファロ捜査官と義理の息子のヴィンス・ローリー医師。本書は彼らのデビュー作でもある。

 

 エジンバラ警察のファロ警部補は30歳代後半、先年亡くした妻リジーとの間に2人の娘がいるが、彼女たちはオークニー諸島でファロの母親が預かってくれている。同居しているのは、リジーが15歳の時に産んだヴィンス。20歳を超え、見習い医師として社会人になったばかり。つまり連れ子である。ファロ家には住み込みの家政婦ミセス・ブルックがいて、男所帯を切り盛りしている。初期のエラリー・クイーン作品に出てくる「リチャード警視・エラリー・執事役のジューナ」にも似た掛け合いが面白い。

 

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 1890年の春、アイルランド人の労働者ハイムズが2人の女性を殺害した罪で死刑となった。被害者の一人はハイムズの妻、淫奔な悪女で痴情のもつれから首を絞められ修道院裏の崖から突き落とされた。もう一人は修道院の教師で、第一の事件の2日後に同じ崖下で絞め殺されていた。この2人は、年齢・背格好・容貌が間違えられるほど似ていた。

 

 ハイムズは妻殺しは認めたものの、教師の方は面識すらないと犯行を否定。しかし裁判では2人殺しで有罪となった。事件は落着したとする警察署内にあって、担当したファロ警部補はハイムズの主張を確認しようと個人的な再捜査を始める。検視にも立ち会ったヴィンスもこれに協力する。

 

 捜査の合間にヴィンスに誘われていったシェークスピア劇場で、ファロは主演女優のアリソンと仲良くなる。ブルック夫人が作ってくれる羊のローストや、居酒屋でのパイントグラスのビールなど、当時の生活がヴィヴィッドに描かれている。事件関係者はごく限られていて、それも事件前に死んでいたり、直後に病死するなど、容疑者は少ない。紹介文には「軽快な犯人捜し」とあるが、それよりもファロ一家の生活や心の動きに特徴があるようだ。

 

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