新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

武装中立、3カ国の場合

 第二次欧州大戦では、ヨーロッパのほとんどの国が戦果に巻き込まれた。しかしトルコ(これは小アジアの国に分類できるかも)と、ここに取り上げる3カ国だけは中立を保った。本書にあるように中立を守れた事情や理由は異なるが、共通しているのは「武装中立」として相応の戦力を持っていたことだ。

 

 70余年にわたって「平和憲法」の下にあり、義務教育にも高等教育のほとんどにも軍事的なカリキュラムがない国ゆえ、日本では「非武装中立」という幻想が大手を振って歩いている。米中対立が激化していて、世界のあちこちで火種がくすぶっている今こそ「温故知新」、本書などから戦渦に巻き込まれない工夫を学ぶべきだ。

 

 スイスは言わずと知れた「永世中立国」だがその実は国民皆兵の国で、一般家庭にバズーカ砲まで隠されているという。第二次欧州大戦が迫っていたころ、スイスの国防は若きアンリ・ギザン将軍の双肩にかかっていた。練度や士気では充分なスイス軍も、航空戦力や装甲戦力は弱体で、実際枢軸側から侵攻されかかったことは何度かある。

 

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 一方連合軍(特に英軍)の領空侵犯や誤爆は頻繁で、イタリア爆撃に向かうランカスターをドイツ製のBf-109で迎撃することもしばしばだという。ドイツに張り出した街シャッハウゼンでは、再三爆撃を受けたとある。昔仕事をしたドイツ・スイス国境の街コンスタンツでは、夜間煌々と明かりをつけてスイス領だと誤認させたと聞く。

 

 バルト海の中心スウェーデンでは、一時期枢軸国に周りを完全に囲まれたが、頑として中立を守った。小規模だがよく訓練された海軍が海上からの侵攻を困難にしていたし、沼沢地が多い国土が機甲部隊の足かせになっていた。

 

 ファシストであるフランコ総統の国スペインは、潜在的な枢軸国を見られていたが、フランコは連合国の挑発にも枢軸国の誘いにも動かなかった。大国の割には戦力が少なかったとも言われるが、長い内戦の結果実戦なれした軍団は十分にあった。

 

 この3国は、決して大戦期間を安閑と過ごしてはいない。外交を尽くし備えを怠らず、時には実際「戦い」をして中立を守った。今日本の政治に期待することは、経済政策よりも社会保障よりも、戦渦に巻き込まれない外交なのかもしれないと本書を読んで思いました。