本書は、何度か紹介しているフランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏のインタビュー記事の書籍化。2013~21年に文芸春秋誌に掲載された記事を11編収録している。英米から欧州、ロシア、中国に言及するとともに、日本の現状課題や将来の方向性について述べている。
貫かれているのは「家族制度」の視点、同時に人口推移・死亡率・出生率などをインジケータに使い、その国の問題点や強みを示して見せる。例えば、プーチン時代にロシアが強くなったのは、乳幼児の死亡率が下がった(社会が安定した)ことが示しているという。
今日本でも問題となっている、移民二世三世問題についても主張がある。英米の文化は核家族主義なので、子供は親の影響しか受けない。だから孫世代になると「場所のシステム」に従って同化が進む。しかし直系(大)家族主義の移民集団は「伝統ある場所」を作ってしまい独自の道を行くことになる。
だから人口減少に悩む日本(*1)は、多くの国から少しずつ移民を受け入れ、個々に日本文化に同化させていかないと混乱をもたらすという。
移民を排斥せよと言うポピュリズム勢力は、欧米で支持を伸ばしている。代表的なものがトランプ政権。この背景にはグローバリズムを推進してもその影響から守られている高学歴エリートと、そうでない人たちの対立がある。多くの市民は仕事や財産を失い、推進派の中からもグローバル疲れが見られる。最悪の例がユーロ導入だ。単一通貨で競争力強化のはずが、欧州の中での競争が激化して、ドイツ帝国に支配されてしまった。しかしポピュリズムを打破するのは難しくない。要はエリートたちが、そうでない人たちの声に耳を傾ければいいのだとの主張である。
面白かったのは民主主義論。民主主義とは広く大衆に開かれたものではそもそもなく、特定の集団が他を排斥して意思決定をするものだとあります。それなら民主主義には、潜在的に排外的な右派の思想が流れていることになりますね。ある種、納得。