2021年発表の本書は、読売新聞編集委員鶴原徹也氏が、2015年から2020年にかけて、世界の英知と言われる人物21人にインタビューしたもの。形式として、識者の独白集になっていて、編者は各独白の人物紹介と簡単なコメントを付けているだけ。
分量も統一されておらず、フランスの歴史人口学者トッド教授は、10回も登場する。同教授の書は何冊も読んだが、反ドイツ、反EU、反グローバリズムで、新自由主義を嫌う人。本書では<シャルリー・エブド事件>に対して反ムスリム&移民に偏ったフランスの世論を嘆いている。
欧米はもちろん、アジアや中東の識者も多数登場(日本からも岩井克人氏、在米の経済学者)する。中国からは、フランスに逃げ延びた人だが張論氏(社会学者)。興味深かったのは、マレーシアの元首相マハティール氏の話。
民主国家では政治指導者には3つのものが必要だとある。
1)時間
2)構想
3)社会格差への配慮
時間という意味は、1年目は業務を学び、2年目は政策を練り、3年目でようやく政策実行に着手できる。1年ごとに政治指導者が変わるようでは、国の政治は停滞してしまうとある。彼は「金満中国は豊かな大国となったことを自覚すること」と注文を付ける。日欧米の民主主義、資本主義が行き詰る中、中国の強権体制にも一定の理解を示している。
コロンビア大のスティグリッツ教授は「COVID-19」禍も受けて、「米国人はグーグルやGMなどの大企業には頼れず、強い政府が必要だと気づいた」という。何人かの識者が、より大きな政府が(格差問題に対応するため)重要だと言っている。ただ、大きな政府がポピュリズム政権になることへの危機感もある。
巨大IT、AI等の新技術については、何人かの識者が危惧を露わにしている。改めて21人の肩書を見ると、技術系の学者はいない。文理融合の時代、もう少し「英知」の幅を広げてもらえたらいいのですが。