2019年発表の本書は、英国に赴任経験もある産経新聞の岡部伸編集委員が、「Brexit」国民投票の後に英国の事情をレポートしたもの。いくつかこのテーマの書物は読んでいるが、英国が抱える問題と共に次の時代に向けた新戦略を紹介していることに特徴がある。
まず問題だが、ドイツやフランスほどではないが、英国でも移民問題が市民感情を逆なでしている事実がある。シリア難民などではなく、東欧からの出稼ぎ者が中心。安い賃金で長時間働く彼らは、イギリスの労働者の仕事を奪っている。加えて市民同様の社会福祉があるのが「逆差別」と捉えられていた。
そこでポピュリズム政党である「Brexit党」のファラージ党首らが扇動して、「EUから離脱、独立せよ」と叫んだわけだ。キャメロン首相は追い詰められて国民投票に委ねたが、正直ガス抜き程度の意識だった。一度離脱が否決されれば、当面大丈夫だろうと。結果は僅差で離脱が決まってしまい、世界は息を呑んだ。その陰にロシアの世論誘導型サイバー攻撃があったと、本書にある。また先導者ファラージ党首は、プーチン大統領の信奉者だったことも公知である。
離脱が決まって東欧移民の相応人数は国(大陸)に帰ったから、離脱の効果はあったようだ。しかしアイルランド問題やスコットランド独立問題が、英国政界に重くのしかかることになる。特にアイルランド紛争が1979年に一応治まったのは、英国のEU参加でアイルランドと北アイルランドの国境が無くなったことが大きいとある。ここに国境が復活すれば、アイルランド人はイングランドに植民地にされたという過去を思い出し、独立して南北合併を図るかもしれない。
一方で新戦略は、スエズ以東への復帰。第二次世界大戦後スエズ以東からは手を引き、欧州に専念するという戦略は捨て去られた。そこで「Global Britain」の看板を掲げアジアへも手を伸ばしている。そのパートナーは(香港問題でもめた)中国ではなく、日本ということになる。僕自身もこの数年、英国大使館からの誘いが年々密になっていることを感じている。
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21世紀の日英同盟は、やはりロシアを意識したものになるようです。日本にも英米並みのインテリジェンス能力が求められますね。