本書の発表は2014年、安倍政権が「集団的自衛権」を行使できるように閣議決定をした、その後の混乱期に発表されたものである。この決定は従来からの憲法解釈を変えるもので、護憲政党や一部メディアの猛反発を招いただけではなく、一流紙からTVのワイドショーにいたるまで、国を挙げての論争を巻き起こした。
僕自身は、多少片務的とはいえ日米同盟があり、世界でも何番目かの費用をかけた「戦力」を日本が持ち、ロシア・北朝鮮だけではなく中国の軍事的脅威が高まる中、当然の閣議決定だと思っていた。ただその際に政府が提示した、4類型15事例というものには違和感を覚えた。ただそれらのどこが変なのか、僕自身説明できなくて黙っていた。その疑問を解いてくれたのが本書である。筆者は高名な軍事評論家、意外なことに軍歴はなく、ジャーナリスト・論客としてキャリアを積んだ人だ。
本書のポイントは、「集団安全保障」と「集団的自衛権」の混同により不毛な議論が続いているということ。
・集団安全保障 国連が加盟国全てで作る安全保障体制のこと。体制には、潜在的な敵国も含まれる。
・集団的自衛権 ある国が武力攻撃を受けた時、第三国が攻撃された国と共同して防衛戦を行う権利のこと。
とかく軍事知識のない日本人でなくてもこれらは混同されやすく、実際安倍政権が示した4類型15事例でもそれが見られると筆者は言う。4類型とは集団的自衛権の必要性を理解してもらうために「安保法制懇」が示したものだが、例えば、
・国連平和維持活動における武器使用
・外国軍隊への補給・輸送などの後方支援
の2例は国連として行う集団安全保障への参加であって、集団的自衛権とは関係がなく、他の1例も個別的自衛権の話だとのこと。日米安保で両国による集団的自衛権は事実上存在しているのだから、不毛な議論は止めて日本の防衛上の大穴をふさげと筆者は指摘する。その大穴とは「安全保障に関する国家戦略の欠如」で、内閣官房等に多くの「戦略本部」はあるものの安全保障の専門家が加わったものがほとんどないことを筆者は嘆く。
例えば尖閣諸島を巡る問題でも海洋戦略が漁業にしか配慮しない不十分なものなので、日中漁業協定を根拠に中国の漁船や公船が堂々と通過していくとのことです。6年経って危機は現実味を増しています。「自衛権」ごときにとらわれず、安全保障戦略の練り直しが要るでしょう。