新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

街角オーディションの目的

 1946年発表の本書は、久しぶりに見つけたE・S・ガードナーの「ペリイ・メイソンもの」。法廷シーンも多く(70ページほどある)、本格ミステリーとしても楽しめる作品に仕上がっている。第二次世界大戦直後なのだが、戦勝国米国には戦争の傷跡も見られない。ロサンゼルスと思しき街は活況を呈していて、求人も豊富だ。本書は、そのなかでも奇妙な求人広告で始まる。

 

「求む、清楚なブルネット。23~25歳、身長・体重・サイズが規定に合うもの。報酬は50ドル/日。希望者は指定日に既定の服装で街角に立て」

 

 メイソンが出会った娘は、これに応募しよく似たルームメイトが当選したという。事件の匂いを嗅いだメイソンたちは、当選したという娘を訪ねると、なかなか会わせてもらえない。彼女エヴァとその付き添いアデルは、指定された豪華な部屋で、その部屋の借主ヘレンになりすますように言われていた。

 

        

 

 それを指示した男ロバートは、実はケチな賭博師、誰かに依頼されたようだが依頼者の名は明かさない。しかも外出するエヴァ達には私立探偵らしいチームが尾行を続けている。一体、このオーディションの意味は何なのか?やがて事件は、ロバートが射殺され、アデルに容疑がかかる殺人事件の裁判に発展する。

 

 ロバートへの依頼者や、その関係者にメイソンが迫る会話やサインを求める調書が面白い。ある程度法律知識を持つ連中を相手に、それを逆手に取った罠をかける。終盤の法廷場面でも、勢い込んで検察官席に立つガリング検事補に対し、法廷内外で罠をかけ「鼻づらを掴んで引きずり回す」。

 

 ガリングは優秀な検察官だが、メイソンに言わせると「法理論は得意でも法廷現場を知らず、閃きが少ない」。ただこの事件はアデルは無罪を信じながら、真犯人をメイソンも分からず弁護する。最後に明かされる旧式拳銃のトリックはさすがで、十分楽しめましたよ。