新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

.22口径コルト・ウッズマン

 1959年発表の本書は、E・S・ガードナーの「ペリー・メイスン」シリーズの中期の作品。前書きにガードナーが、法医学者のドクター・アドルスンとの交友について紹介している。その中で、アドルスンの言葉として、

 

・法医学者は殺人のみに興味を持っているわけではない。

・検死解剖は死者のためにのみあるものでもない。

・真の科学者は決して一党一派に偏してはならない。

 

 と伝えている。彼は殺人事件の公判をいくつも傍聴し、医学専門家の証言は、

 

・公明正大、公正無私

・党派心が強く、偏見に満ちている

 

 の2タイプがあって、後者のタイプがもてはやされると嘆いている。本書のストーリーとは直接関係ないように思えるこの前書きが、なぜか僕の印象に残った。

 

 本書でメイスン一家は、銀行家の大富豪でサンフランシスコの街の半分を支配していると言われるセルカーク家と対峙する。当主マーヴィンはサイコパスとも言える異常性格者、別れた妻との間に生まれた7歳のロバートを激しく殴るなど、奇行が目立つ。再婚を考えていた恋人ノーダにも去られて、怒り心頭。ノーダに、米国中でおきる男女のもつれが原因の事件が記された新聞記事の切り抜きを送り付け続ける。

 

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 一方ロバートを手元に置きたい元妻ロレインは一計を案じ、ノーダと共同でマーヴィンの異常さを世間に知らせようとする。ロレインとノーダがロスでその相談を始めたところ、マーヴィンもロスにやってきた。そしてマーヴィンが射殺されノーダに容疑がかかった。ノーダの弁護を引き受けたメイスンにマーヴィンの父であるホレイスは、「すぐに破産させてやる」と脅しをかけてくる。

 

 メイスンはロバートが銃器マニアで、弾丸こそ込めていないものの本物の拳銃(.22口径コルト・ウッズマン)で時々遊んでいたことを知り、ひょっとしてロバートが父親を誤射して殺したのではないかと疑う。依頼人の容疑は晴らさないといけないし、7歳の子供に罪を着せることもできない。メイスンたちは苦しい戦いを強いられる。

 

 全300ページのうち100ページほどが法廷シーン。やや細かいことにこだわったような部分もあるが、メイスンの法廷戦術が冴える僕好みの展開である。いつも貧乏くじを引く役割のバーガー地方検事はちょっぴり可哀そうですけれどね。