2021年発表の本書は、欧州在住30年のジャーナリストの2人(片野優氏・須貝典子氏)が、欧州各地に残る「都市伝説」を13編集めたもの。不思議な話の連続で、多くのものは映画や小説によって紹介されている。ただ、僕も知らなかった話がいくつかあった。
◆自殺を誘発する曲「暗い日曜日」
1933年ハンガリーの作曲家シュレシュ・レジェーが作曲したこの曲は、ラジオ番組で有名になったが、楽譜やレコードと共に自殺する人が相次いだ。1年で20人弱。その後各国に広まったが、日本でも東海林太郎・越路吹雪・夏木マリらが歌い、本作に関わった音楽家や作家が自殺している。
◆火事を招く絵「泣く少年」
スペインの画家ブルーノ・アマディオが観光客の土産用に描いたもので、多くの複製画が作られた。特に英国でだが、この絵を飾っている家が次々に火災を起こした(2ヵ月の間に5件)。いずれのケースでも(家が全焼しても)絵そのものは燃え残ったという。
◇最強の心霊現象・エンフィールド事件
ロンドン郊外エンフィールドでは、1977年からの2年間に1,500を超えるポルターガイスト現象が記録されている。ホジソン家の次女ジャネットに悪霊がとりつき、空中に飛び上がったり野太い声で卑猥な言葉を吐き散らしたという。心霊現象研究協会(SSR)が調査をしたが、原因は分からなかった。
また、電気自動車メーカー「テスラ」にその名を残すセルビア出身の天才科学者ニコラ・テスラが追い求めた「フリーエネルギー」の夢の話。テスラコイルはそれに近づくものだったが、第二次世界大戦中の<フィラデルフィア実験>に使われて、犠牲者を出した。軍艦をレーダーから見えなくするこの実験は知っていたが、テスラの技術がもとに成っていたことは知らなかった。
このほか、ルートヴィヒ二世やラスプーチン、エリザベート伯爵夫人などよく知られた人たちの謎や、ドラキュラ伝説の発祥地などが紹介されている。ミステリーマニアとしては「切り裂きジャック」事件の5人の犠牲者の分析や、今も残されている証拠物件から、現代の犯罪研究家が真犯人を推理する話が面白かった。「検死官シリーズ」で有名な作家パトリシア・コーンウェルが、それに加わっていたことも初めて知った。
燃えない絵を含め、21世紀の科学でも解決できない謎はまだまだありますね。