新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

オカルトと科学の融合

 本書は、以前紹介した東野圭吾の「ガリレオシリーズ」の第二短篇集。1999~2000年の間に<オール読物>に掲載された5編が収められている。TVシリーズのように女性刑事は登場せず、大学時代の同級生草薙刑事からもちこまれる「怪事件」を湯川助教授が解決するという物語である。短編としての制約もあるから、レギュラー登場人物は限定せざるを得ない。湯川先生は一見奇妙な実験や装置、あるいは言動をするのがシリーズの面白さなので、そちらに紙幅を割くためレギュラーは草薙刑事ひとりで十分なのだろう。

 

 本書の5編も前作にも増してオカルトっぽいスタートである。曰く、

 

・その娘が生まれる前から「モリサキレミ」と結婚すると言い続けた青年

・酔眼でも恋人の姿を見たように思った時、彼女は殺されていた。

・行方不明の夫が最後に訪ねたらしい家に起きるポルターガイスト現象

・夜、町工場の窓に浮かびあがった火の玉と、絞殺された死体の関係

・首つり自殺を目撃された娘は、2日前にも首つりをしていた。

 

 という現代の怪奇現象を、天才物理学者「ガリレオ」が解き明かす。

 

        f:id:nicky-akira:20210630104606j:plain

 

 どうしても福山雅治の印象が強いのだが、本編の湯川助教授はもう少しトボけた味がある。むろん「トボける」のは、仮説を簡単に話さないという伏線(作者からすると読者を欺くいいわけ)にもなっている。仮説・・・そうすべては仮説なのだ。オカルトっぽい状況に対し、湯川はいくつかの仮説を立てる。

 

 「ここにいても始まらない」と研究室を出て、すでに警察が調べつくした現場を独自の視点で見て回る。解決後礼を言う草薙に「僕は自分の探求心を満足させたかっただけだ」とツレなく言い放つのも含めて、ドライな雰囲気は正統派名探偵である。探求心とは、仮説を立証したいという心のことだろう。

 

 もちろん彼は官憲ではないので証拠を固めて起訴するために・・・などと言う努力はしない。仮説を立証すればいいのだ。そこで思ったのは「ほかにも仮説はないか」ということ。これまでの10作品、ほとんどが犯人の自供で終わっている。湯川先生の示した仮説は、実証したとしてもそれが事実かどうかは自供に頼っているわけだ。

 

 このタイプの名探偵は長編には仕立てづらいものです。それでは湯川先生の長編版を探しに行ってきましょうかね。