新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

喜歌劇「魔法使い」の陰で

 1985年発表の本書は、シャーロット・マクラウドの「セーラ&マックスもの」の第6作。前作「消えた鱈」では、ようやく新婚気分も落ち着いたところでセーラとマックス夫婦が純銀製の鱈を巡る事件に巻き込まれる。セーラはあまたある伯父叔母のなかでも特にうるさいアピー伯母の世話にかかりきりで、マックスがほぼ単独で事件を解決するが、本書ではセーラが一人で事件(とその背景)に挑む。

 

 美術品探偵マックスは、盗まれたピカソの絵を追って欧州に出張中。残されたセーラには、アピー伯母と同様厄介なエマ・ケリング伯母の面倒を見る難事が降りかかっていた。このシリーズはボストンの名家ケリング家の若き女主人セーラの成長「大河ドラマ」なのだが、ケリング家は(資産を守るため)近親での結婚を繰り返していて親戚が一杯いる。セーラの最初の夫で故人のアレキサンダーも、セーラとは20歳も年の離れた従兄弟だった。

 

 エマ伯母はケリング一族の中でも資産家、オペラが開催できるほどの客間のある豪邸に住み、高価な宝石や美術品に囲まれて暮らしている。趣味はそのオペラで、ペンザンス海賊団という劇団の代表をしている。

 

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 エマ伯母が企画しているのはギルバート&サリヴァンの喜歌劇「魔法使い」を自宅で上演すること。演出はベドウズ・ケリング、主演がエマ・ケリングで、セーラには美術の役が与えられた。元々画家だからだが、舞台背景を描いたり俳優のメイクをしたり筆をもって協力せよという命令。

 

 例によって暇な上流階級の人達、ささいなことでいがみ合ったり、嫉んだり。ドタバタの中で劇の準備が進むのだが、エマ邸の巨大な絵(ロムニー)が無くなってしまった。そして5,000ドルを要求する脅迫状がきた。絵の時価に比べると、非常に低い額。また劇に出演予定だったチャールズ老が自宅浴室で不審死。転んで頭を打った事故にも見えたが、セーラは殺人を疑って警察を呼ぶ。

 

 このシリーズの特徴は「中段の皮肉なドタバタ劇」にあって、本書でもそれが延々続く。セーラは「マックスが早く帰ってきてくれないか」と思いながら、エマ伯母のわがままを聞いて事件を追う。

 

 いわゆる「ファース」の色がますます濃くなったこのシリーズ。軽めのミステリーとしてはなかなか面白いものです。続きも探しますよ。