新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

美緒も歩けば、死体にあたる

 1996年発表の本書は、何作も紹介してきた深谷忠記の「黒江壮&笹谷美緒シリーズ」の1作。ずっと手に入らなかったもので、先日藤沢のBookoffでようやく見つけた。作者の未読作品は、あと1冊ノンシリーズが残っているだけ。

 

 2時間推理ドラマの典型のようなこのシリーズ、お約束は美女と観光、そしてちょっとだけ事件である。今回の舞台は長崎・壱岐壱岐は確かに観光地として有力なところだが、1ヵ所では持たないとの考えからか、平戸や長崎も廻るストーリーになっている。

 

 あとはこのような地方の事件に素人探偵たる壮&美緒がどう関わるかだが、東京の大学や出版社に勤める彼らが関わるには、

 

・現地の事件に知り合いがいて、助力を求められる

・偶然現場に居合わせて、事件に巻き込まれる

 

 くらいしかない。しかし浦上伸介のようなルポライターならともかく、公費で出張できるはずもないので、どうしてもこのシリーズは後者が多くなる。壮は学会の出張くらいしかないし、彼が最初から関わってしまうとすぐに解決してしまうので、「歩けば事件にあたる」係は美緒が担うことになる。

 

        

 

 今回もそのパターン。大学時代の知り合い3人娘で、GWに壱岐のペンション<サンライズ・サンセット>で過ごすことにした美緒たち。島に渡るフェリーの中で、軽薄そうな3人組の青年と知り合い、ナンパされかかる。島に着いても再三遭遇し、宿泊先まで一緒と分かってがっかりしている。

 

 ところが最初の朝に、3人組の一人がペンションの離れで撲殺され、一人がいなくなる事件が起きた。他の女性宿泊客も3人いたが、3人組最後の一人と一緒に警察の事情聴取を受け、観光プランは台無しになってしまう。

 

 GWが終わり、美緒たちが東京に戻ってからも事件は続き、3人組全員が死んでしまった。背景には1年前に暴行を受けて妊娠し、自殺してしまった娘の事件があるようだ。美緒たちと一緒になった女性宿泊客にその娘の姉がいて、捜査陣は彼女を容疑者とみている。彼女からの連絡で、美緒は<宇宙人>を連れて壱岐に赴く。

 

 物理トリック、意外な犯人と、ミステリーの常道は外していないのだが、少し偶然が過ぎる設定が気になる。作者も、素人探偵の事件への関わり方に苦しんで、少々こじつけが多くなったように思います。作者のノンシリーズは、面白いのですがね。