新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

核兵器廃絶への道

 創元推理文庫にはジャンルを表すマークがあって、本格ミステリーは帽子をかぶった男の頭のシルエット上に「?」、サスペンスは猫という具合。伝奇・怪奇小説には古代の帆船が描かれていた。ほとんど読まなかったそのジャンルだが、「小鼠:グランド・フェンウィック大公国」シリーズは何冊か読んだ記憶がある。

 

 伝奇というよりはアイロニカルなファンタジーで、馬鹿馬鹿しさもあるのだが、なぜか数冊買っていた。その第一作を、先日Book-offで見つけた。それが1955年発表の本書。作者のレナード・ウィバリーは、ノンフィクションやジュブナイルまで幅広い作風で知られるアイルランド出身の米国作家。

 

 北アルプスの一角(5✖3マイルの領土しかない)を占める、グランド・フェンウィックの人口は6,000人ほど。22歳の公女グロリアナ12世が元首で、唯一の輸出品は特産のピノー・ワイン。ところがカリフォルニアのワイン業者がその模造品を売り始めていて、財政は苦境にある。業者に抗議すると相手は「本物と変わらない味・香り」と、抗議されたことを宣伝材料に使うしたたかさ。米国政府に訴えても反応はなく、国内は「水増しワイン」で儲けようとする派と反対派に分かれて政治対立が深まるばかり。

 

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 困った公女は、信頼を寄せるタリイ青年のアイデアを容れて、米国に宣戦布告する。ワインの復讐というより敗戦後の復興支援(うーん、マーシャルプランだ)を期待したものだったが、米国政府は無視してきた。主戦派タリイは20余名の志願兵を募り、帆船を雇ってニューヨークへ出撃する。

 

 そのニューヨーク、コロンビア大の物理学者コーキンツ博士は、プルトニウムより2~3桁威力が大きいカジウムを使った「Q爆弾」を開発し終えていた。米国政府がその始末に悩んでいるところに、タリイの部隊が侵攻。数々の偶然が重なって、14世紀の装備のタリイたちが博士と爆弾を奪って脱出してしまう。

 

 地球の半分を焦土にできる爆弾が大公国に握られると、ソ連と英国が「保護」を名目に駐留しようとする。米国も含めた3国に、グロリアナ12世が突き付けた条件は「核兵器廃絶、査察は小国連合が行う」だった。

 

 米ソ冷戦、核による相互破壊の恐怖の中、笑える「核廃絶の道」でした。しかし結局、超核兵器でしか核兵器は駆逐できないということでしょうかね?