新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

柊検事、忍びの道を研究す

 1993年光文社文庫書き下ろしの本書は、以前短篇集「蛇姫荘殺人事件」を紹介した、弁護士作家和久峻三の「赤かぶ検事もの」の長編。高山地検時代、法廷に好物の赤かぶをぶちまけてしまったことから異名が付いた柊茂検事は、京都地検に異動してきている。

 

 京都の春を彩る「都をどり」をのんびり見物する柊検事は、愛嬌のある若い舞子と寄り添う青年を見かけた。ところがその舞子静香、本名針谷朝子が殺され、容疑者として警察が逮捕したのがあの時の青年針谷賢二、二人はいとこ同士だった。

 

 京都府警の行天燎子警部補から、検事が聞いた事件のあらましは、

 

・静香は伊賀上野の商人篠崎、尾関の二人の座敷を下がった後、行方不明に

・翌朝北山のモーテルで全裸絞殺死体となって発見された

・凶器は彼女自身の腰ひも、その他の衣装は賢二の車のトランクにあった

・死体の脇には紫に着色した米が、何かの記号の形に並べられていた

・死体は、判読不能だが古いB5サイズの和紙を呑み込んでいた

 

        

 

 というもの。針谷家は甲賀水口の忍者の家系、着色した米は忍者が仲間との通信に使う道具「五色米」らしい。青・黄・赤・黒・紫で、色と形で意思疎通をするものだ。京都府警の女傑行天警部補は、夫で滋賀県警の行天珍男子巡査部長から、忍の道の専門家大矢を紹介してもらい、甲賀・伊賀を巡って事件の背景を探る。

 

 この夫婦探偵が戯画的で面白い。妻の方が職位が上、背も高く体力もあって美人。夫は小柄で醜男だが、知能犯罪を担当するインテリだ。事件はその後忍者屋敷である針谷邸での密室殺人にまで発展、柊検事は「忍道」を学びながら事件の真相に迫る。

 

 残念なことに、表紙にあるような忍者は出てきませんでした。京都から甲賀(僕の母方の祖父母は水口に近い油日の出身)にわたる風物詩と謎解きの物語。それなりに堪能しましたが、京都で名古屋弁というのはあまり合いませんね。