新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

習政権、二期目の課題

 本書は以前「巨龍の苦闘」を紹介した現代中国の研究者津上俊哉氏の、2017年発表の著書。「巨龍の」から2年を経て、米国にはトランプ政権が誕生、「Brexit」も成り国際情勢が激変したこの時期、著者は3ヵ月ほど米国に滞在し米国の視点から中国を見たという。

 

 トランプ政権のスタートは国際政治の専門家から見れば危なっかしいものだが、それ(アメリカ・ファースト)を望む世論が着実に蓄積していたことは間違いがない。グローバリズムを進めながら国内では弱者救済をしたオバマ政権の8年間に、ある種の人達は「飽き飽き」していたのだ。彼らから見ればグローバル化とは、中国から安い製品が入ってきて国内雇用を奪うことだ。

 

 トランプ政権は対中貿易交渉をすることから始めざるを得ないが、北朝鮮の軍事的脅威も気になる。トランプ・習会談の結果、中国が北朝鮮を抑える代わりに対中貿易交渉では一歩譲る結果になったとある。本書は米中対立やTPP問題にまで言及していて、ひとつ思い出したのは「中国が大量の米国国債をもっている」こと。対立が深まれば中国がこれを市場でたたき売り、米国経済を破壊する「経済核兵器」と呼ばれていたこと。

 

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 著者は国債に限らずヒト・モノ・カネのすべてで米中両国は深く結びつきすぎ、対立は最終段階までいかないという。大きな問題はやはり中国国内にあって、習大人の二期目(2017年~)の課題は山積している。

 

・大連立政権なので保守派の顔も革新派の顔も立てないといけない。

・デジタル等ニューエコノミーは好調だが、オールドエコノミーは停滞。

オールドエコノミーは多くが国営・公営で共産党の利権がからみ、改革が難しい。

・投資バブルが積み重なって見えない負債が急増、しかし問題先送りが続く。

・元安、資本流出の一方、国内はカネ余りで都市部の不動産が高騰している。

・急速にすすむ少子高齢化で、これまでのような経済成長を維持できない。

 

 ただ一部のメディアが言うような「中国崩壊」に至るようなことはないと、筆者は繰り返す。欧米も不安定な今、中国の国際的な存在価値は高まるだろうともある。そんな中、第二次安倍政権が中国に冷たく、二階幹事長などわずかな人達しか「親中国」ではないことに、筆者は不安を持っている。

 

 津上さんは、中国専門家の中で、僕が一番信頼している人です。これからも勉強させてもらいたいですね。