新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

欠けている中露の視点を補う

 2022年発表の本書は、大阪大学至善館教授橋爪大三郎教授と、ご存じ<元外務省のラスプーチン佐藤優氏が対談した、新時代を読み解く針路。橋爪教授の本は初めてだが、著書を見ると社会学者で中国研究をされているよう。佐藤氏はあだ名の通りのロシア通だ。

 

 大きな国際社会の変化の潮流が見えて来て、近々4分野で(相互に連関した)分岐点に到達するというのが主張。その4分野と、各々のポイントが下記。

 

1)経済

 米国一極集中が終わり、米中を含む多極化時代がやって来る。EU、インドらが加わるが、共産党指導力と個人情報を全て政府が握った中国の躍進が顕著だとある。国際法は欧米型で作られていて、インドはこれに乗れるが、イスラム圏や中国は法体系が違うので受け入れにくい。イスラム圏経済はそのまま終わるが、中国は自前の国際法を持ち出して挑戦するだろう。

 

2)科学技術

 世界のエネルギー問題は、核融合技術の確立が今世紀中に起きて全て解決する。再生可能エネルギーへの投資はムダになるが、核融合までのつなぎとしてやむを得ない。覇権に関係するのが量子技術と宇宙技術。どちらも中国に一日の長がある。

 

        

 

3)軍事

 近々ある米中対立の結果で、世界の勢力図が塗り替わる。中国は台湾に上陸して一部を占拠しようとし、米国はそれを阻止しようとする。ただし、両国とも核兵器は使用しない。サイバー戦争は当然実施されるが、AI兵器(ロボットら)の戦闘については、不透明だし規範整備も不十分。

 

4)文明

 新大陸(米国)は、4大文明が歩んだ時代をすっ飛ばして現代に来た。人口密度が低く資源も豊富なので優位にあったが、帝国主義化する旧大陸国の反撃を受ける。

 

 議論の前提や文明、軍事の歴史などに特に異論はないが、どうしても「西側」の視点で将来を考える傾向にあるので、日本語で中露に詳しい人の意見が読めるのはありがたい。鵜呑みにはしないけれど、こういう見方もあると覚えておきましょう。