新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

市警本部長セオドア・ルーズベルト

 1980年代の米国ミステリー界を代表するパズラー、ウィリアム・L・デアンドリアの第三作が本書。1952年ニューヨーク生まれ、子供のころからエラリー・クイーンを読みふけり、クイーンを目指して作家になったという。デビュー作「視聴率の殺人」以降クイーン仕込みのパズラー小説を次々に発表したが、ガンのため44歳の若さで世を去った。

 

 本書の舞台は1896年のニューヨーク、21世紀同様世界を股にかけるテロリストが米国でも爆弾テロを実行している。そんな時代だが、資本主義の成長があって急速に貧富の格差が開いている。現在ほど法整備が進んでいないせいもあろうが、あこぎな手段を使ってもカネを稼ぎまくるヤカラも後を絶たない。

 

 メディアも萌芽期で、伝説のジャーナリストであるピューリッツアーと後の新聞王ハーストが新聞業界の覇を競っている。そんな折、ハーストの新聞に挿絵を描いていた画家が死体で発見されるのだが、その場に踏み込んだマルドゥーン巡査は画家の寝室で裸体で縛られている若い女を助ける。しかし縄を解いた直後、女は彼から拳銃を奪い「これは殺人よ」と言い残して姿を消した。

 

 画家はハーストからピューリッツアーの新聞に「移籍」しようとしていたようだが、それ以上何かがあるわけではなく事件は表向き自殺で片づけられた。アイルランド移民の好青年マルドゥーン巡査は、拳銃を奪われた失態をとがめられてクビになってしまう。

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 しかしこれは市警本部長ルーズベルトの策略で、本部長は警察内部にも疑惑があり画家も殺害されたとみてマルドゥーン巡査に密偵を命じたのだ。背景にはまさに山場を迎えつつある大統領選挙(当時から民主・共和両党の争い)があり、大統領候補者にすりよる富豪の影もある。さらに無政府主義者のテロリストも出没する。

 

 100余年経っても変わらぬニューヨークの風情だが、自動車はまだ黎明期で主な移動手段は馬車である。安酒場やピンク街も西部劇に出てくるような雰囲気で、そんな街でマルドゥーン青年は姿を消した女「ピンク・エンジェル」を追う。

 

 第26代大統領セオドア・ルーズベルトが、ニューヨーク市警本部長だったのは事実。その時代を、新聞王などの実在の人物を多く登場させて仕立てた本格ミステリーである。当時の米国の歴史がちょっとだけわかったことも含めて、とても面白かったです。