新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

200年前のチェスト

 2014年発表の本書は、マーク・プライヤーの「ヒューゴー・マーストンもの」の一冊。デビュー作の「古書店主」は以前紹介していて、パリの米国大使館外交保安部長であるヒューゴーが、華の都をカウボーイブーツでのし歩く典型的な「米国の田舎者」ぶりが興味を惹いた。

 

 本書ではややその傾向は抑えられているが、デビュー作同様女性ジャーナリストのクラウディアやCIAのトム・グリーンも登場してヒューゴーと共に活躍する。冒頭1795年のパリ、一人の老人が「多くのものがこれにかかっている」と悲壮な手紙をしたため、腕から血を絞って署名をするシーンで始まる。老人は手紙を密封してチェストに収めた。

 

 一転して現代のパリ、ヒューゴーは大使から「特命」を与えられる。米仏の間には大西洋に浮かぶフランス領の島を巡って「領土問題」がある。この交渉に米国からやってくるのは大統領候補でもあるレイク上院議員。反欧州、特にフランス嫌いのレイクが選ばれた理由は分からない。彼はフランス政府の高官トゥールヴィユ家を訪れ、交渉に臨む。同家は元貴族で、今でも豪華な城を保有している。ヒューゴーに与えられた任務は、レイク議員に過度なトラブルを起こさせない事。大使は任務を「ベビーシッター」と言った。

 

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 緊張して始まった交渉だが、最初のディナーの席でレイク議員はひどい酔いを感じ早々に部屋に引き揚げることに。翌朝には回復したのだが議員は「誰かに毒を盛られた。夜に誰かが部屋に侵入してきた」と言う。ヒューゴーは知り合いの警部を呼んで捜査を始めるのだが、部屋から発見された指紋のひとつが未解決となっている強盗殺人事件の現場の指紋と一致する。

 

 その事件は元貴族の旧家に強盗が入り、同家の老婆に発見されて殺したというもの。宝石などを入れたチェストが盗まれている。交渉に来た議員を守ると同時に、強盗殺人事件も追うことになったヒューゴーはCIAのトムも呼んで盗まれた宝石などを手配する。本書でもやはりセーヌ河沿いの古物商が出てくる。

 

 別ブログで紹介したが、欧米で日本の横溝正史らの著作が人気(*1)。理由は昨今の欧米ミステリーが「予想外のひねりと思いがけない事実の暴露」に傾き過ぎている反動だという。本書は、まさにその典型的な作品といえよう。確かにびっくりはするのですが、ちょっとやりすぎのような気もしますね。

 

*1:Honkaku小説人気は歓迎だけれど - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)