新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

<ヴァイオレーター>の人間味

 2018年発表の本書は、マーク・グリーニーによる「暗殺者グレイマン」シリーズの第七作。前々作「暗殺者の反撃」でCIAの陰謀を打破し、追われる身ではなくなった<グレイマン>ことコート・ジェントリー。前作「暗殺者の飛躍」では、CIAの外郭工作員として自由な作戦行動を取れるようになっていた。

 

 追われていた時代から、コートは自らの強力な戦闘能力を、悪人にしか使わなかった。無垢の人達はもちろん、銃を持った相手でも悪人でなければ抵抗せず逮捕されてしまうこともある。CIAはコートを、冷酷非情な殺し屋である暗号名<ヴァイオレータ>に育てた。しかし自由を得たコートは、正義のためにしか自らの能力を使わなくなっている。

 

 今回、コートは大好きな街パリで、シリアからの亡命者たちを支援する団体のTOPタレーク夫妻から、シリアのアフメッド大統領(アサドがモデル)の愛人を救出するよう依頼された。スペイン系のスーパーモデルだったビアンカはアフメッドと恋に落ち、庶子ながら男子を出産していた。

 

        

 

 しかし自らの子供を亡くしているアフメッドの正妻シャキーラは、ビアンカと子供を抹殺しようと企んでいた。子供はシリア国内に匿われていて、ビアンカはパリまで逃げて来ていた。そこにシャキーラが放った刺客が現れたが、間一髪コートが彼女を救って亡命者支援団体に届けた。

 

 タレークはビアンカに、アフメッドの不正を国際社会に示す証言をしろと迫った。彼女は「子供をシリアから脱出させてくれるなら」と回答する。タレークはその救出を、引き続きコートに依頼するが、コートはタレークたちの素人加減に辟易し、世界で一番危険なエリアに行く阿呆がいるかと断る。ところがコートの心の中で、ビアンカとその子供を助けたいとの声が大きくなってくる。<ヴァイオレーター>が非情な戦闘機械から、人間に戻りつつあったのだ。

 

 タレークは自分の組織を使ってコートのシリア潜入を助けるというのだが、コートは彼らを信じない。外国人傭兵部隊をシリアに送り出す企業に加わり、傭兵としてシリアに潜入する。ISISやクルド勢力、ロシア軍、政府軍らが入り混じる危険地帯で、コートの救出作戦が始まる。しかし、それはほんの入り口に過ぎなかった。

 

 毎回感心させられるコートの大活躍、ついにシリア大統領暗殺を企みます。引き続き、このシリーズは楽しみにしています。