2022年発表の本書は、以前「人工知能と経済の未来」「現金給付の経済学」を紹介した駒澤大学の井上智洋准教授のメタバース論。単なるテクノロジー論ではなく、Web3.0の時代に資本主義はどう変わるかが考察されている。旧フェイスブックが社名をメタと改めたのも、この空間を開拓する意志があったから。フェイスブックやツイッター(現X)が、誹謗中傷ツールになってしまったことの反省もある。
Web2.0は<GAFAM>と呼ばれる巨大IT企業のものだったが、Web3.0(*1)はユーザーが巨大IT支配に抗する思想運動だという。その中でメタバースは、コミュニケーションのできる仮想空間として全てのユーザーに解放され、交流することで運営され発展していく。
本書の主題は「メタバース経済」で、これは従来の経済と以下の点で異なる。
・資本財ゼロ
・限界費用ゼロ
・独占的競争
・供給や空間の無限性
・移動速度の無限性
AIが仕事を奪うと言われるが、メタバースは次々とニーズ(仕事)を生み出すので、AIはそれを達成する必要があるので仕事は無くならない。リアル社会は自動機械が推進する(スマートシティ)ので、人間は自ら望む世界に没入できるという。極端なことを言えば、カプセルホテル状の生存領域とHMD(*2)があれば楽しく暮らせるというわけ。
そんな時代の資本主義とは、お金というよりは知恵。つまり「頭脳資本主義」の時代になるという。研究開発やデザインのような上流工程、マーケティングのような下流工程の付加価値が上がり、中間の製造・組み立て工程の付加価値が下がる。その結果、中間作業を受け持つ(旧)中間層の没落が大きくなる。年収は極端なロングテール型になり、格差は極限まで広がるということ。
筆者はそれゆえに、BI制度を主張しています。Web3.0とBIがここで結びつくのですね。
*1:ブロックチェーン技術を応用した仮想通貨、DAO、NFTなどが特徴
*2:ヘッド・マウント・ディスプレイ