新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

管轄外の再捜査に挑むティベット

 1971年発表の本書は、パトリシア・モイーズの<ヘンリ&エミーもの>。以前紹介した「死の贈物」の次の作品にあたる。デビュー作「死人はスキーをしない」でも、ヘンリたちはイタリアアルプスのスキー場で事件に巻き込まれるのだが、今回の舞台もスイスの山村モンタラ。冬には富裕なスキー客であふれるが、短い夏には庶民がコンドミニアムにやってくる観光の村だ。

 

 ロンドンでヘンリたちの隣人だった彫刻家ジェーンは、夫を亡くしてモンタラ村の山荘でひとり創作活動中。フランスの大物政治家の妻シルビィと仲良くなって、行き来するようになる。村でスキー講師をしているロバートと、コテージの管理人アンヌ=マリーは美男美女のカップル。しかし映画スターのジゼル夫婦がやってきて、ロバートが不倫に走ってしまった。ロバートはパリまでジゼルを追いかけていったが門前払いされ、酒浸りになって村に戻ってきた。そのロバートが刺殺され、アンヌ=マリーが逮捕された。

 

        

 

 アンヌ=マリーは無実を主張するが、状況証拠は完ぺきで有罪判決が出た。ただ情状酌量があって、懲役3年だが修道院で3年過ごすという執行猶予が付いた。ジェーンは釈然としないものを感じ、友人のヘンリ夫妻に事件について説明する。この村で休暇を過ごしたこともあり、アンヌ=マリーも知っているヘンリとエミーは(管轄外ではあるが)再捜査を始める。

 

 ジゼル夫妻やシルビィ一家など関係者の多くは、事件の日にはパリにいたというアリバイがある。ヘンリは赤ちゃんを産もうとしているアンヌ=マリーを救うため、真犯人探しとアリバイ崩しに挑む。

 

 ジェーンやエミー、シルビィらが「わたし」として登場する章の連続なので、やや混乱しがち。加えて1章が長く、段落の切れ目も少ない(10ページほど文字が埋まっていることも)のでちょっと読みづらい。それでも、謎解きは面白かったですね。