新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

大都市アイソラの刑事たち

 1950年代の繁栄していたアメリカ。第二次世界大戦が終わり、米ソ対立の時代に入ろうとしていた時だったが、アメリカは世界の盟主だった。ハリウッド発の映画は自由主義陣営にくまなく供給され、TVドラマも世界に流れていった。アメリカは新しい文化の源だった。「大草原の小さな家」や「奥様は魔女」、「サンセット77」、「ハワイ5-0」などのドラマは日本でも放映された。その10年後くらいに、ようやく小学生になった僕は、これらのドラマの再放送を喜んで見たものだ。
    

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 エド・マクベインは、高校生のころエヴァン・ハンター名義の「暴力教室」を読んで好きになった作家。同じ高校生として荒れる米国の教育現場に戦慄したし、日本もそうなるのかとの危惧も持った。大都会の暗部を抉り出す彼の最大のシリーズが「87分署」で、集団刑事ドラマのモデルとなった作品群だと思う。
 
 高校・大学で1000冊を読破したミステリマニアだった僕でも、50を超えるこのシリーズ全部を読んだわけではない。2年ほど前に「キングの身代金」(黒澤明監督で映画化もされた有名作品)を古本屋で見つけた。それから気が付くとこのシリーズを買ってくるようになった。
 
 今回読んだのがこれ。7作目(だったと思う)なので、初期のメンバが出てくる。このシリーズでは刑事はもちろん、フィアンセなど彼らの関係者もよく死んでしまう。そうやってレギュラーメンバーを入れ替えていく手法は、日本の刑事ドラマ(例えば「太陽にほえろ」)にも使われるようになっている。
 
 本書の発表は1958年、アメリカが自信に満ちていたころだ。しかし、この作家はアメリカに巣食う課題を架空都市アイソラの風景に織り込んで物語を進めていく。人種差別・貧困・不法移民・麻薬・銃器・さまざまな犯罪。60年前の話とはとても思えない。共和党の大統領候補トランプ氏のいう問題は、今に始まったことではない、ということだろう。
 
 近代都市の課題を「警官の目線」でとらえたことが特徴で、社会の暗い面を知るには面白い参考書であろう。