新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

時代遅れのドクトリン

 軍人は直近の大戦争のドクトリンで、次の大戦を戦うという。帝国海軍は日露戦争の、特にツシマこと日本海海戦の戦訓で太平洋戦争を準備した。大洋を越え遠征してくる敵国の主力艦隊、これを日本近海で待ち受け撃滅、制海権を失った敵国は講和へと傾く、というのがそれ。

 

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 日本海海戦の実相は、小規模だが新鋭艦が多く十分な整備と訓練を積んだ艦隊と、老朽艦含め寄せ集めで士気も上がらないうえ長すぎる遠征で疲弊しきった艦隊の対戦だった。勝利の公算はかなりあったと思われる。敵の大軍を天佑神助で破ったというのは、後の宣伝文句にすぎない。
 
 日本は、第一次世界大戦に深くかかわることなく、青島攻略や地中海への遠征くらいしか実戦を経験しなかった。多くの日本人にとってはこの大戦争は印象の薄いものだろう。ただ、現在でも欧州で「世界大戦」といえば第一次大戦を指すのが普通である。
 
 1,000万人近い戦死者を出した未曾有の戦役であり、潜水艦・航空機・戦車・毒ガスといった新兵器が登場した。当然、あまたの戦訓を残している。この本「戦争史概観」は帝国陸軍士官学校のテキストを復刻したものである。ここに挙げられている戦訓・事例は第一次大戦のものがほとんどである。 
 
 独仏の主力が対峙したベルギー近郊の戦線は、おおむね平地で、深い密林も山岳地帯もなかった。天然の遮蔽物がないので、両軍は塹壕を掘り、有刺鉄線を張り、機関銃を据えて防御を固めた。攻撃側は重砲でそれを破壊しようとするが、双方とも十分な戦果をえることはできなかった。
 

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 その戦訓から、第二次大戦では機甲部隊の電撃戦という戦術が生まれたが、太平洋戦線では上記とは異なる「島嶼上陸戦」が多く戦われることになる。
 
 さて現代だが、注目され始めたのが「サイバー戦争」である。2015年末、ウクライナの電力網にサイバー攻撃があり、140万戸が停電した。ご丁寧にも攻撃者は同地区の電話網にも攻撃をかけこれを沈黙させた。電力設備や通信設備も、現在ではPCに近い構造になっており、インターネットに直接はつながっていなくてもウィルス等の被害を受ける。停電したうえ、電話もつながらなった人たちは、さぞ心細かっただろう。
 
 実際に軍が侵攻する前に、対象の通信などインフラ設備を混乱させておくのは十分ありうる戦術。場合によっては、サイバー攻撃だけでも国家に甚大なダメージを与えられるかもしれない。そういう時代の安全保障はどうあるべきか、政府をはじめ多くの人が考えるべきではなかろうか。