新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「補聴器の男」の陰謀

 しばらく前に、藤沢のBook-offの帰り道、昔ながらの古本屋の店頭に、エド・マクベインの「87分署シリーズ」で、ハヤカワミステリのカバーもないものを数冊見つけた。その中で未読のものが3冊あって買ってきたので、今日からそれをご紹介したい。

 

 まず本書(1968年発表)はシリーズの第22作目、「電話魔」で初登場し何度もキャレラたちを引きずり回した「死んだ耳の男」が再度アイソラにやってくる。翻訳では「つ×ぼ男」となっているが、ここでは「補聴器の男」と表記することとしたい。

 

 金髪長身のこの男は大胆な犯罪者で、「電話魔」ではもう少しで大掛かりな銀行強盗(BtoB)を成し遂げるところだった。今回は奇抜な心理戦でBtoC型の脅迫犯罪を企む。凍てつくような早春のこの日、87分署管内では、

 

・追いはぎ14件

・婦女暴行3件

・ナイフ沙汰1件

 

 など各種強盗が36件も起きている。バーンズ警部とマイヤー刑事以外の面々は、それらの捜査で管内に散っている。2人が刑事部屋のペンキ塗り替えの匂いに閉口していると「市の公園局長を殺されたくなかったら、5,000ドル払え」という脅迫電話が掛かってくる。身代金を受け取りに来たチンピラを捕えてもラチがあかず、局長は狙撃されて死ぬ。

 

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 一方浮浪者を狙ってガソリンを撒いて火をつける事件を追って、浮浪者に扮していたキャレラ刑事は、やはり火を付けられて火傷を負って入院してしまう。そして今度は副市長を狙うとの予告で、身代金は50,000ドル。事件は87分署管内以外で起きるのだが、最初に脅迫電話が掛かってきたのが87分署だったことから、焦る市警本部長はバーンズ警部以下の面々に事件解決を命じる。

 

 刑事たちが聞き込んだところでは、方々に「補聴器を付けた金髪・長身の男」が顔を出す。病院でキャレラは事件の経緯を聞き、「あの男が帰ってきたのでは?」と疑う。例によって(実際同様)複数の事件が並行して進む。

 

・「補聴器の男」の脅迫・暗殺からの大規模犯罪計画

・浮浪者に火をつけて回るイタズラ犯

洋品店を狙うチンピラたちの強盗計画

 

 それらがあざなえる縄のように絡みながら、大団円へと向かっていく。

 

 解説には「シリーズ最高傑作」の評価がありました。確かに面白いのですが、ちょっと結末があっけなすぎるような・・・まあ、好みの差かもしれません。