2017年発表の本書は、「公益資本主義」を掲げて安倍内閣からの諮問で「目指すべき市場経済システムに関する専門調査会」の会長代理を務めた経済人、原丈人氏の手になる者。著者はシリコンバレーでベンチャーキャピタリストをし、英米型の資本主義に限界を感じて日本で「新しい資本主義」を打ち立てる努力をしている人。
なぜ新しい資本主義かと言うと、英米型資本主義は株主資本主義で、株主のために儲けることが至上命題になっているのが社会のひずみを生んでいる。これを是正するために、儲けを「社中」に分配する資本主義になるべきだということ。「社中」とは従業員なども含み、ステークホルダーと言う意味だろう。
株主価値最大を目指すゆえに、配当と株価を上げることに経営者が尽力する。長期の成長を狙う研究開発も、事業を安定させる人材育成もプライオリティは高くない。ある経営危機に陥った米国企業は、500億円の人件費カットをして危機を脱し、その功績で経営陣は200億円のボーナスを得たという。
労働者の給与は上がらず、株主を儲けさせた報酬で一握りの経営陣が肥え太る。格差拡大や分断といったひずみの根本原因が、この資本主義にあるというのが筆者の主張。ではどうすればいいのかと言うと、
1)会社の公器性と経営者の責任を明確化
2)中長期株主の優遇
3)にわか株主の排除
4)株式保有期間で税率を変える
5)ストックオプションは廃止
6)新技術・新産業への投資の税控除
7)株主優遇と同程度のボーナスを従業員に
8)ROEではなく「社中」全体への貢献度をはかる指標
9)四半期決算の廃止
10)中長期経営を重視する人を社外取締役に
11)時価会計原則と減損会計の見直し
12)GDPではなく新しい経済指標の設定
確かに株主偏重のあまり、英米型経済は「金融ゲーム」と化している。しかし日本の多くの企業は、「会社は株主のもの」というレベル(2.0)まで達していない。表向きは株式会社でも、同族経営だったり身内偏重だったりして、株主にすら還元していない企業(株式会社1.0)も多いのだ。
まずレベル2.0に達して、それが社内に浸透してから筆者の提案する3.0のレベルを目指すべきだろう。現に筆者らが安倍内閣に諮問した内容は浸透しなかった。ただ若い人たちにSDGsやESGに尽力する企業を応援しようという動きはあります。時間をかけて3.0レベルに挑むのは大賛成ですよ。