新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

オーバーバンキングって本当?

 「COVID-19」騒ぎだけでなく、総務省接待問題など出て来て手が回らないのかもしれないが、菅政権の政策目標のひとつは「金融再編」だったはず。最近その報道があまり見られない。ただ日本の地域金融機関の経営はかなり苦しくなっていて、再編を求める声は大きい。昨年も「2025年の銀行員」という書を紹介して、現場の再編への期待やら不安を勉強した。

 

地金(ちきん)再編への道 - 新城彰の本棚 (hateblo.jp)

 

 今や日本は「オーバーバンキング」だというが、それに疑問を投げかけたのが本書(2018年発表)。著者の橋本卓典氏は共同通信社経済部記者、金融を軸足に幅広い経済ニュースを追いかけている人。題名の「金融排除」とは、融資を受けたい企業があっても、

 

・担保が無いから

・経営者が外国人だから

・特定の業種(例:旅館業)

・過去に不渡りを出したことがあるから

 

 などの理由で「排除」されているケースを指す。再編で金融機関が100以下になった英国の例(2025年の銀行員)はあるが、日本には銀行・信金信組合わせて500あって、これがオーバーバンキングかというのが問題。米国の12,000やドイツの1,900よりよほど少ないと本書はいう。

 

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 ではなぜ日本で金融再編が必要かと言うと、上記のように借りたい企業はいるのに排除して自ら市場を狭めているからだというのが本書の主張。本来「金融」はもっと広い顧客に融資できるのに、狭い範囲に多くの金融機関がフォーカスするので一部で過当競争、他では「放置」が行われているということ。本来の「銀行マン」とは、

 

・カネを貸してやるではなく、お金を使っていただくと考える。

・顧客の事業の内容に精通し、一緒に事業を考える。

 

 べきだが、そんな例は少ないと筆者は言う。本書の多くの部分は、地域金融機関で上記の視点で「挑戦」をしている金融機関の紹介に充てられている。すべての銀行に、このような「構造改革」が求められているわけだ。「2025年の銀行員」を読んでも同じ印象を持ったのだが、ここで言う本来の「銀行マン」に何%が立ち戻ることができるのかが問題。実際にはメガバンクですら末端のコストカット(支店再編・ATM撤去等)に走り、構造改革ではなく縮小再編に向かっている。

 

 本書の事例のように金融が本来の機能を取り戻せば、地域の産業も復活するようにも思えます。そんな「再編」を期待したいのですが。