新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

新幹線を狙ったテロ

 中学生で翻訳ミステリーにはまり込み、高校生になってミステリー漁りに拍車がかかった僕は、日本のミステリーも読むようになった。かなり初期に読んで感動したのが、森村誠一「新幹線殺人事件」だったことは、昨日紹介した。
 
 しばらくして、同じように新幹線を舞台にしたミステリーに出会ったのがこれ。「新幹線殺人事件」が1970年発表で、本書は少し遅れて1974年に発表されている。ただ、前者は新幹線のダイアグラムを使ったアリバイものだったのに比べ、後者はいわゆる「社会派小説」であって、新幹線の騒音・振動公害を背景にしていた。本格ミステリーというわけではなく、一種の義賊もの・悪漢小説のようなものだった。

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 作者の清水一行は多くの社会派小説を書いた人で、企業の悪行や集団化した時の人間の行動を厳しい目で見つめることに特徴のある作家だった。本書もそのトーンで貫かれていて、新幹線公害に憤った男が国鉄(!)に列車の速度を落としたり、線路の両側に緩衝地帯を設けるよう要求する姿が描かれている。
 
 もちろん速度を落とせば最大の特徴が無くなるし、緩衝地帯の設定など不可能だ。国鉄や政府がそんなことを呑むはずはない。そこで彼は、自らの知識・立場・資源を投入して新幹線を止めるというテロを企画・実行に移す。その手口はじつに巧妙なもので、作者はよくこういうことを調べたものだと感心する。
 
 ・病院からニトログリセリンを手に入れ、爆弾モドキを作って車内に仕掛ける。
 ・ATSが効かないように、ポイント付近にアブラを撒く。
 ・停止信号周波数を調べて、並走する車から列車停止信号を発信する。
 
 これだけのデモンストレーションをしても当局が要求に応じないので、男は国鉄総裁宅に乗り込み直談判をするがそれでも政府・国鉄の意思を覆せないと確認すると、最後の手段に訴えトンネルの出入り口付近に遠隔操作のブルドーザを落とそうとする。
 
 政府側では新幹線7,000km計画を推進する総理大臣がいて、この敵対行為に激怒する。彼の夢は、日本中に新幹線網が走る「動脈列島」を作り上げることだ。往時の「日本列島改造論」を唱えた田中角栄首相を彷彿とさせる。この新幹線7,000km計画の図が挿入されていてリアルである。四国には2本しか入っていないので、現在の3本架橋ではないな、などとマニアックにみて楽しめる。
 
 映画化もされたはずで、犯人役の近藤正臣が印象に残っている。この人、神津恭介役を2時間ドラマでしていたが、悪役の方がずっと似合う。舞台の多くは名古屋周辺で展開されるのだが、表紙のこのサングラスの男は誰だろう?ひょっとして、名古屋の天敵タモリ殿ですかね?