新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ホワイトホール、1980

 ギャビン・ライアルといえば、「深夜プラス1」「もっとも危険なゲーム」などで有名な、冒険・アクション作家である。これらの作品は特定の主人公(例えばプリンス・マルコ)を持たず、一人称形式でサスペンスを盛り上げるものだった。シリーズ主人公もののいいところは慣れた読者が付きやすいことだが、ワンパターン化したり主人公が死ぬはずがないのでサスペンスフルの設定をしづらい欠点もある。

 
 ライアルは、パイロットを中心に銃の骨董商や保安エージェントなど毎回主人公を変え7作を書いて、第8作からレギュラー主人公を登場させることにした。それがハリイ・マクシム少佐、特殊部隊SAS出身で妻を事故で亡くした35歳。首相補佐官であるジョージ・ハービンガー、情報部員であるアグネス・アルガーとトリオを組んで首相官邸(ホワイトホール)にからむ事件に対応する。

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 本書の書評には、「イギリス流のハードボイルド小説」とある。探偵の免許は持っているが権力に束縛されない一匹狼が、自らの矜持に基づいて事件に挑むというのが正統派(アメリカン)ハードボイルドである。確かにこういうスタイルを、イギリスミステリーで読んだことはない。ハードボイルドテイストをイギリス流にあてはめると、フィリップ・マーロウはマクシム少佐になったということ。
 
 事件は模擬手榴弾がホワイトホールに投げ込まれるところから始まる。爆発物処理班を呼べ、などとホールの職員が駆け回る中、マクシム少佐はそれをひょいとつまんでみせる。犯人はすぐ拘束されるのだが、彼には法廷でぶちまけたい秘密があった。ソ連など東側もからんできてスパイ物かと思わせるが、1942年の北アフリカ戦線で起きた事件にルーツがあることがわかる。
 
 キレナイカと呼ばれる砂漠ばかりの不毛の地で、ロンメル軍団と対峙していたイギリス軍は、長距離砂漠挺身隊(Long Range Desert Group)という十数人のチームをドイツ軍の後方かく乱目的で派遣した。LRDGは、SASの前身でもありマクシム少佐も縁がないわけではない。このような危険なミッションは当然犠牲も出るのであって、あるミッションでは3名しか生還しなかった。それから40年近くたって、そこで何があったかをマクシム少佐は推理する。
 
 特殊部隊出身のタフガイを主人公に据えながら、アクションシーンは多くない。ただ東側の殺し屋と対決するシーンは、動きは少ないが凄みがある。「深夜プラス1」などに比べて評判になることに少ないマクシム少佐ものだが、なかなか迫力あるシリーズのようだ。さっそくBook-offで続きを探してみましょう。