新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「影のCIA」が語る21世紀の歴史

 作者のジョージ・フリードマンは、インテリジェンス機関「ストラトフォー」の創始者でありチェアマン。同社は「影のCIA」とあだ名され、政治・経済・安全保障に関する独自の情報を各国政府や大手企業に提供ていると伝えられる。「Comming WAR with Japan」などの著書があり、その本も架空戦記と思って買い、まじめな政治書だったので驚いた記憶がある。

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 本書も、2009年の段階で想定される以後100年の「世界史」を描いたものだ。作者の視点はテクノロジーとエコノミー。特に注目しているのは、デジタル技術と人口問題だ。全世界的に21世紀は人口減少に見舞われるため、経済を維持するために先進国の間で移民の争奪戦が起きる。同時にAI・ロボットを含むデジタル技術に依存せざるを得なくなるという考え方である。各国の状況を見ていくと、

 

◆中国 世界の大国になることはない。2020年代に内部分裂で弱体化する。

◆ロシア エネルギー資源国として成長するが、2020年代に米国と対立し崩壊する。

◇トルコ 2030~40年代にイスラム世界の盟主に成長、2050年代の戦争に敗れる。

◇日本 中露の弱体化により軍事大国に復活、2050年代の戦争で再び敗れる。

◇ドイツ 人口減少に悩み低成長、トルコ・日本に巻き込まれ三度目の敗戦。

ポーランド 旧ソ連西部を侵食、2050年代の戦争の勝利者となり隆盛。

◆米国 2050年代の戦争に勝ち、黄金時代を迎えるが、移民政策でメキシコと対立。

◇メキシコ 2050年代から急成長、米国西部のヒスパニックの力が大きい。

 

 2040年代に米国は「Battle STAR」という静止衛星を3つ持ち、世界を支配していたのだが日本が月面基地からのミサイルでこれを破壊、トルコと組んで「第三次世界大戦」を起こすとある。両国は中露の衰退によってその両側から領土を侵略し、大国となっていたのだ。アメリカは2030年代にはポーランドを含むこれら三国に中露の旧領土を安定化するための支援を行ってきたのが遠因である。

 

 ドイツ(と恐らくフランス・イギリス)は人口減少と移民排斥によって十分な労働力を得られず衰退、ヨーロッパの盟主はポーランドになってしまう。「第三次世界大戦」の勝利側にもなったポーランドは欧州で地歩を固める。米国はその技術力で宇宙でのソーラー発電によるエネルギー大国として隆盛になるが、西部地区に住むヒスパニックの反政府運動に手を焼く。背後にはこれも大国となったメキシコがいて、21世紀最後の紛争は北米大陸で起きる。

 

 所詮予測だからというわけではないが、ひとつのシナリオとしてよく考えられたものと思う。強力な指導者であるプーチンなきあとのロシアと、急成長しながらも内部分裂の危険性をはらむ中国の2020年代は、確かに不安に満ちている。この本は10年後にもう一度読んでみましょう。