新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

経済安全保障の教科書

 2020年発表の本書は、アジア・パシフィック・イニシャティブ(API)の船橋洋一理事長が、2010年代の国際情勢を分析した小論文をまとめたもの。APIは非営利・独立系のシンクタンクで、今年7月には(公財)国際文化会館と合併することになっている。長年シンクタンク活動を続けられた船橋理事長の、集大成のような書と思って買ってきた。

 

 「地経学:Geoeconomics」とは耳慣れない言葉だが「国家が地政学的な目的のために、経済を手段として使うこと」だという。近い言葉に「Economic Statecraft」があると聞いて納得した。

 

「Economic Statecraft」って?(前編) - Cyber NINJA、只今参上 (hatenablog.com)

 

 本書では2010年代の10大事件を挙げ、この年代は1930年代に近いと評している。

 

・2010年、尖閣諸島での日中激突、中国のレアアース禁輸

・2011年、エジプトのムバラク政権崩壊

・2014年、ロシアのクリミア編入

・2016年、英国国民投票で「Brexit」決まる

・2016年、米国トランプ候補大統領選に勝利

 

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 などを通じて見えてきたのは、世界全体が「戦争でも平和でもない状態:Unpeace」になっているということ。1930年代はその最後(1939年)に、ドイツとソ連ポーランドを分割、第二次世界大戦が始まっている。2010年代ではなかったが、2022年にロシアがウクライナに侵攻、第三次世界大戦の危機にあるともいえよう。

 

 中国はレアアースを、中東(&ロシア)は石油を「武器化」して、国際社会を恫喝している。米国は意識していないかもしれないが、欧州はGAFAなどプラットフォーマーは「米国の武器」と見ている。ASEAN諸国の中には、中国のプラットフォーマーに同じ思いを持っている国もある。

 

 戦争でも平和でもない状態の最たるものが「サイバー空間」だと、筆者は言う。本来世界でひとつの「インターネット」だったが、中国の「Great Fire Wall」などによって「スプリンターネット」になっているとある。さらに国際法整備が未熟なこの空間では、各国機関や犯罪集団がやり放題に暴れ回っているとも指摘している。

 

 本書は間違いなく「経済安全保障」議論の教科書です。なんとなく産業政策に見える日本の法案、本書に添って見直して欲しいですね。