新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

飛び交う.45ACP弾

 ハードボイルド小説というジャンルは、ダシール・ハメットが始めたと言われ、より文学的なチャンドラー、ミステリーの色濃いロス・マクドナルドなどの後継者たち(全く作風は違うのだが)を含めてそのジャンルとして区分されている。

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 「ハードボイルド」の意味は、半熟卵のようなベトベトした感傷を切り捨て、行動的(時には暴力的)なミステリーを目指すということだった。第二次世界大戦が終わって間もない1947年、ミッキー・スピレーンが本書でデビューし、このジャンルに一時代を築いた。
 
 マイク・ハマーはニューヨークの私立探偵。酒好きで好色と、まあ典型的なハードボイルド小説の主人公である。太平洋の島で日本兵に殺されかかったのを助けてくれた親友ジャックが殺された事件で、警官やメディアを前に「犯人は俺が殺す。裁判も電気椅子も要らない」と宣言する。
 
 犯人はジャックの下腹部を45口径のダムダム弾で撃ち、死ぬまでの間苦しむのを眺めていたらしい。ハマーはこれに怒ったのだ。本書には45口径の拳銃が何度も出て切る。おそらくはコルト・ガバメント1911だろう。1911年制式と古いのだが、80年ほども米軍の制式拳銃だった。ハマーも、太平洋戦線で使っていたのだろうその愛銃を今も持っている。
 
 警官が持つ38口径(9mm)拳銃より、ストッピングパワーが大きい。使われるのは45ACPと呼ばれる弾丸、この弾頭に犯人は工具で切れ目を入れ手製のダムダム弾としてジャックを撃った。弾丸は人体に当たって砕け、その分だけ被害者の体をぐちゃぐちゃにする。
 
 ハマーは愛銃コルトでの復讐を誓って、暗黒街のボスやその用心棒、売春組織などを相手に大立ち回り、これにジャックを殺した犯人がからんで何丁もの45口径が火を吐く。派手な撃ち合いや煽情的なシーンが出てきて、有名なラストシーンまで(男性の)読者をひきつける要素が山盛りだ。
 
 通俗的な作品ですが、この後マイク・ハマーものはベストセラーになりました。映画化もされています。ハードボイルド探偵は時々無茶をするのですが、ハマーの行動はギャングと変わりません。まあこういうのもアメリカの一面だよねと思うくらいで、好んで読むことはないでしょう。