新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2024-10-01から1ヶ月間の記事一覧

パリ三聖人シリーズ第二作

1996年発表の本書は、以前「死者を起こせ」を紹介した、フレッド・ヴァルガスの<三聖人シリーズ>第二作。聖マルコ・聖マタイ・聖ルカとあだ名される36歳の貧困学者たちが、いやいや探偵をする物語。 ルイ・ケルヴェレールは内務省調査員だったが、いくつも…

起きなかった真実の物語

2013年発表の本書は、元イスラエル軍准将エフタ・ライチャー・アティルの作品。同国の秘密情報機関モサドの内幕を描いたもので、作者はモサドではないが軍の情報担当だったことから、モサドについての知識や人脈は多いと思われる。「はじめに」で、作者は本…

犯罪組織対バン・ショウの仲間たち

2016年発表の本書は、昨年「眠る狼」を紹介したグレン・エリック・ハミルトンの第二作。センセーショナルなデビューを果たした前作の勢いそのままに、元レンジャー隊員バン・ショウの活躍を好調に描いている。 バンの本名はドノバン、祖父と同じ名前だ。祖父…

米国を変えることができるか?

2022年発表の本書は、女性米国政治研究者が集めた「現地女性たちの声」。自由の国米国のはずだが、そこにはいくつもの差別や偏見が残っている。○○(*1)だから、声を挙げられなかった人たちが、米国を変えようとしたことをレポートしたもの。テニスの大阪な…

ロイヤル・スカーレット・ホテルの7階

1938年発表の本書は、不可能犯罪作家ジョン・ディクスン・カーの<フェル博士もの>。ピカデリー広場に近い<ロイヤル・スカーレット・ホテル>での殺人事件に、博士とハドリー警視、クリス・ケント青年が挑む。 クリスは富豪の友人ダン・リーパーと賭けをし…

愛と裏切りの街、アイソラ

1992年発表の本書は、巨匠エド・マクベインの<87分署シリーズ>。以前紹介した「寡婦」に続く作品である。新書版で350ページを越える大作で、キャレラたちは何度も命を狙われると訴える女エマのため、アイソラの街を歩き回る。 株式仲買人マーティン・ボウ…

日本の政治をゆがめた4要因

2018年発表の本書は、リベラル派の論客である山口二郎法政大学教授の、日本の民主主義への警鐘。筆者は旧民主党のブレーンであり、野党共闘の推進者市民連合の中心人物でもある。現政権を歪んだものし、その問題点や政権を維持させているのは何かを論じてい…

悪意の全くないサスペンス

1956年発表の本書は、以前「始まりはギフトショップ」を紹介したシャーロット・アームストロングの代表作。米国探偵作家クラブ賞の長編賞を受賞している。作者は劇作家出身で、30作の長編ミステリーを遺したが邦訳されたものは多くない。 「始まり・・・」は青…

台湾侵攻阻止を請け負った傭兵

2005年発表の本書は、以前「そして帝国は消えた」を紹介した落合信彦の国際謀略小説。日本でこの種のヴィヴィッドな作品は少なく、ジャーナリスト出身で、石油ビジネスの裏面にも詳しい作者ならではの迫力ある1冊だ。 時は2007年、経済成長著しい中国だが、…

シンクタンクとして日本外交に物申す

2021年出版の本書は、今回の自民党総裁選に意欲を見せながら、推薦人が集まらず立候補できなかった青山繁晴参議院議員の外交エッセイ。ある経済紙に、小泉内閣末期から東日本大震災(菅内閣)までの間掲載した記事を集め、インタビュー等を加えたもの。著者…

殺人者としてのリリーのキャリア

2015年発表の本書は、マサチューセッツ在住の作家ピーター・スワンソンの第二作。デビュー作「時計仕掛けの恋人」もジェットコースターのような展開が話題を呼んだが、作者は本書で一躍注目されるようになった。 各章に登場人物の名前がついていて、その章は…

7+1点の能面を持つ実業家

本書は、昨年短篇集「蛇姫荘殺人事件」を紹介した弁護士作家和久峻三の「赤かぶ検事もの」。1992年から1年間、<小説NON>に連載されている。赤かぶの異名をとる柊検事は、相棒といってもいい行天警部補とともに京都に赴任してきている。そこで旧家の主山下…

心の深奥にひそむ謎

本書は、昨年「寒い夫婦」を紹介した土屋隆夫の短編集。1955年に「宝石」に掲載された「傷だらけの街」以降、1975年に「別冊小説現代」に発表された「風にヒラヒラ物語」まで、8編の短編が収められている。「寒い夫婦」は比較的本格ミステリー色の濃い作品…

テス・モナハン29歳、探偵始めます

1997年発表の本書は<ボルチモア・サン紙>の記者ローラ・リップマンのデビュー作。第二作「チャームシティ」以降、数々のミステリー賞を受賞しているシリーズ「テス・モナハンもの」のスタートである。DCに隣接したメリーランド州の街ボルチモア。そこでは…

武力を使った「平和統一」

2024年の台湾総統選挙を受けて、その後の台湾海峡の展望を記したのが本書。著者の峯村健司氏は朝日新聞出身のジャーナリスト、現在はキャノングローバル戦略研究所の主任研究員である。以前紹介した「ウクライナ戦争と米中対立」では、インタビュアーを務め…

8人の天才たちvs.コロンボ

本書は「刑事コロンボ」の放映シリーズの中でも評判が高かったものだが、なぜかノベライゼーションが遅れて、2000年にようやく出版されたもの。原作もノベライゼーションも同じ、W・リンクとR・レビンソンである。 「Gifted」と呼ばれる優秀な子供たちを英才教…

女王79歳、健在ぶりを示す

本書は1969年発表の、女王アガサ・クリスティの「ポワロもの」。このところ事件が起きる前が長く「誰が犯人か、どうやったのか?」ではなく「何が起きるのか?」で物語の前半を引っ張る作品(例:ゼロ時間へ)が多かったのだが、本書では冒頭13歳の女の子が…

もはや内部補助では立ち行かない

今日10月14日は「鉄道の日」。それにちなんだ2022年発表の本書は、カナダ在住の乗り鉄YouTuber鐵坊主氏の「日本鉄道の未来」。失われた30年で経済成長せず、少子高齢化や地方の過疎化が進み、コロナ禍が追い打ちをかけた日本の鉄道事業がどうなっていくのか…

「デジタル梁山泊」になれなかったよ

2023年発表の本書は、朝日新聞ドバイ支局長だったが本書にある取材を通じて退職した記者伊藤喜之氏の「ガーシー事件始末記」。ドバイを拠点に芸能人らについての暴露を繰り返し、幾多の訴追も受けていた東谷義和らのドバイでの行動をインタビューを重ねて記…

棺に片足を突っ込んだ弁護士

1997年発表の本書は、「×法おもしろ事典」や「赤カブ検事シリーズ」を紹介した和久峻三のもうひとつのシリーズ「猪狩文助もの」の1作。すでに80歳を越えていて、歯は1本もなく白内障にも悩まされている、弁護士猪狩が主人公のシリーズである。口癖は「棺に…

カネは盗まれたがっている

本書は多芸な才人ドナルド・E・ウェストレイクが、リチャード・スターク名義で書いている「悪党パーカーもの」。1962年に「人狩り」でデビューした犯罪者パーカーものは、1974年の「殺戮の月」を最後に発表されていなかった。それが23年のブランクを経て1997年…

戦後最長政権をフェアに評価する

2022年発表の本書は、シンクタンク<アジア・パシフィック・イニシャティブ>の安倍(長期)政権検証。これまで<アベ政治>に批判的な書(*1)も紹介したし、内側にいた人の秘録(*2)も読んだが、バイアスがかかったり踏み込み不足なものだった。しかし本…

サイコメトリー探偵の先駆者

本書は、何気なくBook-offの棚から手に取って買って帰った。作者の名前も知らず、ただ本格ミステリー短編集だろうなと思ったくらいだったのだが、解説を読んでびっくりした。ドロシー・L・セイヤーズが挙げた名探偵の系譜の中に、本書の主人公モリス・クロウが…

これは殺人じゃない、妻殺しじゃない

1931年発表の本書は、「クロイドン発12時30分」「伯母殺人事件」と並んで倒叙推理3大古典と言われるフランシス・アイルズの傑作。作者は他に3つのペンネームを持ち、アントニー・バークリー名義での「毒入りチョコレート事件*1」も名作である。 田舎町に住…

王政・共和制・帝政、1,200年の戦史

2005年発表の本書は、軍事史作家柘植久慶の「ローマ帝国史」。テヴェレ河畔(*1)の小さな羊飼いの集落が、地中海全域から、西はポルトガル・イングランド、東はイラク、北はオランダやモルドヴァまでを版図にする(*2)までになった。東西に分かれ、西ロー…

「バラ撒き」の実態解明

2023年発表の本書は、毎日新聞記者高橋祐貴氏の「TAX Eaterレポート」。財政逼迫なのに市民は「もっとよこせ」といい、増税と言えばもう批判を浴びる。しかし税金が行くべきところに行っていないとの印象はあっても、じゃあ(行くべきでない)どこに行ってい…

ピーター・ダルース最大の危機

1952年発表の本書は、パトリック・クェンティンの「ピーター&アイリスもの」の最終話。「迷走パズル」で入院加療中だったピーターはアイリスと出会い、幾多の事件を経て結婚し、仲睦まじく暮らしている。演劇プロデューサーとして復帰できたピーター、女優…

モンドリアンを巡る陰謀

1983年発表の本書は、ローレンス・ブロックの「泥棒探偵バーニイもの」の第五作。1977年のデビュー作「泥棒は選べない」以降、おおむね年1作発表されてきたのだが、本書の後10年以上新作が途絶えている。 決して暴力は使わない泥棒のバーニイは、表のビジネ…

日本一のための準備と用兵

プロ野球のペナントレースも大詰め。これからクライマックスシリーズから日本シリーズへ、5~7戦の短期決戦が始まる。140試合ほども闘うペナントレースでは、3連敗どころか10連敗してもリカバリ手段はある。しかし、短期決戦ではそうはいかないから、自ず…

帰ってきたマロリー大尉たち

1998年発表の本書は、「海のディック・フランシス」と異名をとった英国冒険作家サム・ルウェリンがアリステア・マクリーン公認で「ナヴァロンの要塞」シリーズを書き継いだもの。このシリーズは、 「ナヴァロンの要塞」1957年(*1) 「ナヴァロンの嵐」1968…