新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

2024-12-01から1ヶ月間の記事一覧

国際紛争の根底にあるのはコレ

今年はまれに見る国際紛争が多い年だった。その根本原因となっているのが、数ある資源。地政学的な偏りが大きいことから「持てる国と持たざる国の対立」を引き起こす。2009年発表と少し古い本だが、今年の総括に読んでみた。編者は世界博学倶楽部。 枯渇が心…

ドンファン「伯爵」にかかる容疑

1967年発表の本書は、巨匠エラリー・クイーン後期の傑作。初期の鮮やかな論理推理や中期のライツヴィルものに見られる重厚さに加え、人間に対する洞察と小説としてのテクニックが向上して、味わい深い本格ミステリーに仕上がっている。 12月30日の夜、引退し…

追い詰められる黒人枢機卿

昨日に引き続き、本書はサイモン・クインの<異端審問官もの>。シリーズ第四作(1974年発表)で、昨日紹介した事情で邦訳は2作目。今回チェルラ異端審問所長とキリー審問官に与えられた任務は、アフリカのトランス・コンゴ出身の黒人枢機卿ジョン・ミーマ…

ヴァチカンの「殺さないスパイ」

1974年発表の本書は、匿名作家(*1)サイモン・クインのスパイスリラー。ヴァチカンの聖務省が持つ異端審問所の審問官(Inquisitor)フランク・キリーのシリーズだ。原作は6冊出ているのだが、なぜか第一作、第三作が翻訳できなかった。そこで第二作の本書…

ポピュリズム台頭は結果である

2024年は選挙イヤー、各国でポピュリズムが台頭している。その萌芽は「Brexit」や「トランプ1.0」なのだが、2019年発表の本書はその原因を追究した経済アナリスト吉松崇氏の政治論。 20世紀以降の民主主義では、右派=資本家側、左派=労働者側だったが、21…

さよなら!フェルプス君

このDVDは、これまで2~6シーズンまでを紹介してきた「Mission Impossible」の最終シーズン。1973年に放映されたもので、いくつかのエピソードを覚えていた。高校生になっていたはずだが、欠かさず見ていたものと思われる。大好きなリンダ・ディ・ジョージ…

ロング・ピドルトン村のX'mas

1981年発表の本書は、英国の本格ミステリ黄金期を受け継ぐ、マーサ・グライムズのデビュー作。「クリスティやセイヤーズらに代表される黄金期は死なない」として、謎解き小説の作風を守り、日常の中での犯罪を扱う(バイオレンスの少ない)作品を<Cozyミス…

修道士カドフェル登場

昨年エリス・ピーターズの「雪と毒杯」を紹介(*1)して、作者が<修道士カドフェルもの>で有名だと知った。それからずっと探していたのだが、なんと「教養文庫」が翻訳出版していたことが分かっり、早速その第一作(1977年発表)を買ってきた。 12世紀のイ…

ヴィクトリア荘の下宿人<スミス氏>

1939年発表の本書は、ベルギー生まれで記者出身の作家スタニラス=アンドレ・ステーマンの本格ミステリー。1931年発表の「六死人」は、クリスティの「そして誰もいなくなった」に先駆ける作品と言われる。本書も、フェアなのかどうかの議論を巻き起こしたと…

神を演じたダルジール警視

1990年発表の本書は、以前「秘められた感情」や「四月の屍衣」を紹介した、レジナルド・ヒルの「ダルジール&パスコーもの」。「秘められた・・・」から20年近く経っていて、パスコーは主任警部に昇進している。妻のエリーとの間に子供も生まれて、私生活は安定…

ヒトはサイボーグとして生き残る?

昨日に引き続き、人類の未来に大きく影響する技術の話。2021年発表の本書は、国際政治経済学者浜田和幸氏の「サイボーグ化最前線レポート」。お騒がせ人イーロン・マスク氏の生い立ちからプライベートまで紹介してくれるのだが、その部分はともかく<IoB:In…

ヒトが制御できなくなる新技術

2023年発表の本書は、テクノロジーを起点に未来の在り方を提唱するフューチャリスト小川和也氏の警鐘。人工知能(AI)とゲノム編集技術が急成長していて、人類社会に危機が訪れているとの内容だ。筆者は人類滅亡を、 ・人間による主体的な世界の統治が出来な…

ブラッドベリ初期の短編集

本書は、ファンタジーの大家レイ・ブラッドベリ初期の短編集。「火星年代記」や「10月はたそがれの国」など有名な諸作はあるが、いつごろブレイクしたかについては定説がない。1940年代後半にパルプ雑誌に作品を発表し始めて、50年代には高級誌にも掲載され…

厄介な敵ガブリエル

このDVDは、派手なアクションが売り物の「Hawaii-5O」のシーズン6。前シーズンで脱獄に成功した、チンの亡くなった妻の弟ガブリエルが存在感を増す。シーズン1からずっとマクギャレット少佐を苦しめてきた敵ウォー・ファットが記念の第100話で死んだが、そ…

変革のための戦略と事例

2023年発表の本書は、淑徳大学教授雨宮寛二氏(経営学)のDX戦略論と実戦例集。DXを単なるIT導入と勘違いしている企業が多く、本当の意味の構造改革に着手していない。経営学の視点からのDX論として、興味深く読んだ。 DXのキーはデータだが、企業がデータを…

3本の電話が作った不可能犯罪

1934年発表の本書は、以前デビュー作「完全殺人事件」を紹介したクリストファー・ブッシュのアリバイ崩しもの。今回も複数の容疑者のアリバイを丹念に検討し、真相に迫る探偵役はルドヴィク・トラヴァース。 事件は、シイバロという、ロンドンから遠くない田…

論理推理 vs. 刑事の勘

1992年発表の本書は、以前「人体密室の犯罪」を紹介した由良三郎の科学捜査もの。作者は「医学英文語法」などの学術著書もある高名な細菌学者で、62歳で「運命交響曲殺人事件」でミステリー作家デビューをした。デビュー作が「第二回サントリーミステリー大…

赤穂事件の歴史的考察

本書は2003年に「忠臣蔵のことが面白いほどわかる本」と題して出版されたものを、加筆修正して2017年に再版した赤穂事件の歴史的考察。筆者の山本博文氏は、東京大学史料編纂所教授。 「仮名手本忠臣蔵」はじめ多くの戯曲・映画・小説・ドラマ等で扱われたテ…

<タイタニック号>で替わった2人

1938年発表の本書は、ディクスン・カーの<フェル博士もの>。ケント州の由緒ある貴族ジョン・ファーンリに、思わぬ疑惑が持ち上がった。15歳の時米国に渡る<タイタニック号>の事故に遭った彼だが、米国で20余年を過ごし兄の急死で準男爵位を継いでいた。…

5人の里子たちの運命

1998年発表の本書は、ローラ・リップマンの「テス・モナハンもの」の第三作。前作「チャーム・シティ」でアガサ賞・アンソニー賞を獲得した作者は、勢いに乗って本書を執筆した。いろいろな格差(富裕/貧困、黒人/白人・・・宗教も)のある衰退都市ボルチモア…

「ロシアの世界」の意思と所業

昨日「戦争はどうすれば終わるか」でウクライナ・ガザの紛争終結に向けた国内の議論を紹介したのだが、そのウクライナがどうなっているかを知る必要があると思って読んだのが本書(2023年発表)。著者の岡野直氏は朝日新聞記者、海外取材の経験が豊富だ。ロ…

「自衛隊を活かす会」の停戦議論

本書は、ロシアのウクライナ侵攻を受けて「自衛隊を活かす会*1」のメンバーに戦史研究家を交えて「いかに停戦させるか」を議論したレポート。議論は2023年9月に行われたが、その後ハマスのイスラエル攻撃があって、ガザの悲劇も始まった。本書には、ウクラ…

最後に書かれたポアロもの

本書は1972年発表、女王アガサ・クリスティが最後に書いた「ポアロもの」である。この後1975年に「カーテン」が出版されたのだが、これは女王が全盛期に書き溜めておいた「ポアロ最後の事件」である。1920年「スタイルズ荘の怪事件」でデビューした名探偵も…

最悪のはじまりで迎えた対米戦

本書は「大鑑巨砲作家」横山信義初期のシリーズ「修羅の波濤」の外伝。「鋼鉄のリヴァイアサン」でデビューした作者は、本当に書きたかった「八八艦隊物語」全5巻ののち、「修羅の波濤」全8巻で太平洋戦争のシリーズものを書き続ける自信を得たように思う…

三外務大臣が重用した秘書官

2022年発表の本書は、東京国際大学教授(国際政治・近代史)福井雄三氏の「外交官加瀬俊一の評伝」。表紙の写真は<ミズーリ>艦上の降伏文書調印式のものだが、重光外相の後ろに立つシルクハットの人物が加瀬外交官。「日本外交の主役たち」など多くの著書…

中立な歴史人口学者として

フランスの著名な歴史人口学者エマニュエル・トッド博士のインタビュー記事は何度も紹介しているが、ロシアのウクライナ侵攻直後に出版された「第三次世界大戦はもう始まっている*1」の主張内容を、少し深堀して日本のジャーナリスト池上彰氏のインタビュー…

東西ベルリン分離の爪痕

ミステリーと言えば20世紀中盤までは英米のほぼ独占(ちょっと仏もあり)、その後北欧ものなどが紹介されるようになり、21世紀には独伊のものも邦訳されるようになった。昨日紹介したのはナポリを舞台にした警察小説だった。本書は2011年発表の、ベルリンを…

ナポリの<87分署>

2013年発表の本書は、先月「寒波」を紹介したイタリア発の警察小説シリーズの第一作。作者のマウリツィオ・デ・ジョバンニは、ナポリ生まれで銀行員出身。このシリーズは、ナポリの下町に位置する架空の<ピッツオファルコーネ署:通称P分署>の刑事部屋を…

実戦教本パズルブック(後編)

本書の発表は2010年。昨日紹介した「名将たちの決定的戦術」の続編で、やはり28の設問が収められている。冒頭リデル・ハートの言葉「戦場の状況の3/4は霧の中」を紹介し、さらにいったん戦闘が始まれば諸要因(疲労・恐怖・天候・遅延・幻想)が入り混じって…

実戦教本パズルブック(前編)

2007年発表の本書は「実戦学シリーズ」などを紹介した、元陸将補松村劭氏の実戦教本。以前「戦術と指揮*1」を紹介していて、これは架空戦でのパズルブックだったが、今日からの2冊は戦史に基づくもの。本書には26の設問が用意されている。 冒頭「戦術=仕掛…