新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

小説・映画・ノベライゼーション

 アリステア・マクリーンは「女王陛下のユリシーズ号」でデビューし、イギリスの軽巡洋艦ユリシーズ」の活躍と最期を描いてダグラス・リーマン流の海戦もの作家の登場かと思わせた。しかし、第二作は有名になった「ナヴァロンの要塞」、映画化され大ヒットした。

 
 地中海に建設されたドイツ軍の巨砲陣地、上空からの爆撃もこれを無力化することはできない。艦隊の活動をこの巨砲に制限された連合軍は、決死隊を送り込んでこの巨砲を葬り去ろうとする。なるほどとは思ったのだが、軍事常識的には疑問符を付けざるを得ない。あんな射界の狭い砲台がどれだけ連合軍海上部隊の移動に制限を加えたのだろうかと、悩んでしまった。

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 それはともかく映画は十分楽しめたし、改めて小説を読んでも感動は変わらなかった。007シリーズを読んでも考えることだが、映画と小説の違いってなんだろうということである。アリステア・マクリーンは、何作かを経て本書「荒鷲の要塞」を書いた。これは純粋な小説ではない。最初にマクリーンが映画のシナリオを書き、その後に自らノベライゼーションしたものである。
 
 本書を作者の最高傑作とする書評もあるが、どうしても最初に小説として書かれたものとの差を感じてしまう。マクリーンの作品の多くは、敵との戦いではなく自然との闘いを克明に描くことが特徴だった。「ナヴァロンの要塞」の主人公マロリー大尉も、特殊部隊の戦士ではなく登山家である。ナヴァロン要塞の背後の絶壁を登れるのは彼だからである。当然、登山のシーンは作中の重要な位置を占める。
 
 それに比べて本書は、ドイツアルプスの極めて厳しい地形を舞台としながら、アクションシーンばかりが目立つ。確かに後年のジェフリー・ディーヴァーを思わせる三転四転のプロットなどは、素晴らしいものだと思う。ただし、スパイ・二重スパイ・三重スパイと変化していくことが、映像で見るとサスペンスフルなのに活字で読むと過剰な目まぐるしさを覚えるかもしれない。
 
 絶壁上の城に捕らわれた要人の奪回指令や、重要な作戦を知っている将校の事故、将軍に似た男を身代わりにすることなど、第二次大戦で実際に起きたことを取り入れてリアリティを持たせている。ヒトラーはスコルツェニー部隊に命じてムッソリーニを奪回させたし、ノルマンディ上陸に当っては作戦要綱を持った偽装死体が用意された。モントゴメリー将軍には、そっくりさんがいて将軍のようにふるまっていたことは衆知である。
 
 小説に始まり映画で躍進し、映画シナリオをノベライゼーションした本書。もちろん面白いのだが、少し本質を外れてしまったのではないかと思う。