2024-11-01から1ヶ月間の記事一覧
1922年発表の本書は、「樽」でデビューしたF・W・クロフツの第三作。後年の名探偵フレンチ警部は登場せず、素人を含む複数の捜査官が英仏海峡をまたぐ組織犯罪に挑む。 ボルドーの街に近いレク川のほとり。ワインを扱う商社員メリマン青年は、ふと迷い込んだ製…
2020年発表の本書は、国際政治学者友原章典氏の「移民論」。欧米で移民排斥の声が多くなる中、日本も今後移民問題と排斥運動の激化が予想される。一部に感情的な議論があることから、本書の「道義的な観点を外し、純粋経済的な面を見て」のスタンスに期待し…
1945年発表の本書は、以前「暗闇へのワルツ」「暁の死線」「幻の女」などを紹介したサスペンス作家ウイリアム・アイリッシュ(コーネル・ウールリッチ)が第三の筆名ジョージ・ハプリイ名義で発表したもの。ウールリッチ名義で黒をモチーフにした復讐譚や犯…
1985年発表の本書は、音楽プロデューサであるポール・マイヤーズが書き始めたエスピオナージの第一作。作者は、小澤征爾氏らとも交流のある欧州では高名なプロディーサだという。主人公のマーク・ホランドは引退した英国情報部員。今は音楽プロデューサとし…
1973年発表の本書は、これまで「毒蛇」ら3作品を紹介しているレックス・スタウトの「ネロ・ウルフ&アーチー・グッドウィンもの」。蘭と美食を愛し、300ポンドの体重のせいで外出することがほぼない「不動の名探偵」ウルフを、助手のアーチーが機略を持って…
2014年発表の本書は、イタリアの<87分署>との言われるマウリツィオ・デ・ジョバンニの<P分署シリーズ>第三作。分署立て直しで赴任してきたパルマ署長の指揮で、麻薬がらみで地に落ちたP分署の士気は回復しつつある。11月のナポリは凍てつくほど寒い日が…
2017年発表の本書は、堺屋太一最後の小説・・・ではあるが、小説の形をとって僕たちに「あるべき&ありたき日本像」を示してくれた書だ。2026年、政府債務は1,500兆円(GDP比3倍)に達し、毎年40兆円の国債を発行しなくてはならないところまで日本政府は追い詰…
1997年発表の本書は、先月「ボルチモア・ブルース」を紹介したローラ・リップマンの「テス・モナハンもの」の第二作。米国探偵作家クラブ賞などを複数受賞した話題作である。作者は現役新聞記者であり、テスも倒産した新聞社で記者をしていた設定。 DCにも近…
2017年発表の本書は、志駕晃のデビュー作。<このミス大賞>の15回隠し玉賞を受賞した作品で、以後続編(*1)が発表されている。作者は当時ニッポン放送の開発局長、番組プロデュースなどを手掛けてきた中で、ラジオの番組作りで「情報に対するセンス」を養…
これがあるエリート軍人に付けられたあだ名である。その人物とは、元大本営参謀辻政信大佐。ノモンハン事変で事実上の指揮を執るなど活躍した一方、悪しざまに言う人も少なくない。 タイで終戦を迎えた彼は、戦後の工作のためタイに潜行するが、蒋介石との日…
2020年発表の本書は、以前「国のために死ねるか*1」を紹介した自衛隊の特殊部隊創設者伊藤祐靖氏の架空戦記。「国の・・・」に書かれた自衛隊特殊部隊の思想、訓練、日常、覚悟や、自衛隊上層部、防衛相幹部、政治家などに対する現場からの見方を小説形式で著し…
2016年発表の本書は、デビュー作「The Poisoned Rose」で2001年の米国探偵作家クラブ賞ペーパーバック賞を獲った、ダニエル・ジャドソンのスパイスリラー。かなりの銃器マニアで、コネチカット州在住というくらいしか情報がない作家である。おおむね1作/年…
2002年発表の本書は、ドイツのミステリー作家ベルンハルト・ヤウマンの第五作。非常に凝った作品を書く人のようで、人間の五感と長い旅行をした街を組み合わせて、連作を発表した。 1.聴覚・ウィーン「聴覚の崩壊」 2.視覚・メキシコシティ「視覚の戦い…
これまで長期政権だった「アベ政治」を評価する書を複数紹介した。アジア・パシフィック・イニシャティブの「検証安倍政権*1」が最もフェアだと思った。2023年発表の本書では、コンプライアンスの鬼ともいうべき郷原信郎弁護士(*2)の目から見た、安倍政権…
2日に渡り陳舜臣「戦国海商伝」を紹介したが、今日は室町~戦国時代の海賊(含む倭寇)と水軍の歴史そのものを見ていきたい。2002年発表の本書は、国立歴史民俗博物館の宇田川武久教授の論説。まずこれらの定義だが、 ◇水軍 大名権力に直結した海上支配のた…
佐太郎は棒術師範祝一魁の娘翠媛をめとり、日明交易の傍ら「倭寇」を使って反政府行動も操るようになる。明国は南の「倭寇」たちの跳梁だけでなく、北の騎馬民族アルタイの侵攻にも悩まされ、国力を衰えさせている。宦官政治による汚職の蔓延は、著しい富の…
本書は、1988年から89年にかけて産経新聞に連載された陳舜臣の長編歴史ロマン。室町時代末期、毛利元就の落しだね佐太郎が東シナ海を駆け巡る物語だ。室町幕府の権威も揺らぎ、地方豪族(直に戦国大名となる)が剣を競っていた。周防から出雲にかけては、博…
2022年発表の本書は、ロシアのウクライナ侵攻とこれにともなう核を使うぞとの脅迫を受けて、専門家4名(*1)が対談した結果のレポート。長らく使われるはずのなかった核兵器が、ひょっとすると炸裂するかもしれない国際情勢の中で、日本の安全保障はどうあ…
80年前の今日は、ノルウェーのトロムセフィヨルドに停泊していたドイツの最新鋭戦艦「ティルピッツ」が転覆し戦闘力を無く(ようするに沈没)した日。1939年竣工のこの戦艦は、「ビスマルク級」の二番艦。排水量43,000トン、最高速力約31ノット、38センチ連…
本書は深谷忠記初期(1986年発表)の作品で、探偵役の黒江壮&笹谷美緒も若い。作者が注目されたのは1982年の「ハーメルンの笛を聴け」で、その後「殺人ウイルスを追え」でサントリーミステリー大賞の佳作を得ている。このころは、大掛かりなトリックをいく…
このDVDは「NCIS LA:潜入捜査班」のシーズン5。前シーズンの最後に、心身ともに痛手を受けたディークスの復帰から物語が始まる。これまでは「ただの相棒」としてやや頼りなくて愛嬌のある彼と距離を置こうとしていたケンジーだが、ここに来て「支えなくて…
1928年発表の本書は、「月と6ペンス」などで知られる文豪サマセット・モームの自伝的スパイスリラー。作者自身WWⅠではスイスを拠点に諜報活動に従事し、大戦末期にはロシアでの革命を阻止しようと現地で工作をしたが、任務は失敗に終わった。 冒頭、作家の…
本書はスペンサーもので知られるロバート・B・パーカーの単発もの。比較的初期(1976年)の作品で、スペンサーものを5~6作発表した後、初めてスペンサーの出ない作品を書いた。舞台はスペンサーと同じボストン、主人公の中年作家ニューマンと妻のジャネット…
2002年発表の本書は、これまでノンシリーズばかりを紹介してきた斎藤栄のシリーズもの。<タロット日美子>のシリーズが有名だが、この<小早川警視正>ものも多く発表されている。ただ、僕が読むのは初めて。 本書の構成は、4つの長めの短編の連作形式にに…
冷戦期のリアルなスパイスリラーと言えば、ル・カレ、バー=ゾウハー、デイトンらの名前が挙がるが、もうひとりグレアム・グリーンも有名な作家だ。しかし、これまでどの作品も読んだことが無かった。今回入手できたのが、1978年発表の本書。 1963年、英国MI…
2020年発表の本書は、NHK取材班が米国大統領選挙でマイクロターゲティングがどのように使われたか、その実態と課題、今後の展望をまとめたもの。2018年に放送した<クローズアップ現代+>での取材内容を基にしている。 ヒラリー対トランプという異色の対決…
2012年発表の本書は、以前「お世継ぎ」を紹介した評論家八幡和郎氏の歴史書。舌鋒鋭い評論が印象的な筆者も、最近TV等でお見かけしなくなった。現代政治・経済の論説だけでなく、国内外の歴史の研究者であることも、上記の書で知った。 本書は「ありがちな戦…
1960年発表の本書は、カリフォルニア在住の作家・演出家シオドー・マシスン(*1)の短編集。収められた10編の短編は「歴史上名を残した人物が、一生に一度名探偵役を演じる」というテーマで<EQMM誌>に連載されたもの。作者がこの企画を持ち込んだ時、エラ…
1999年発表の本書は、ご存じ<キンジー・ミルホーンもの>の第15作目、ついに「O」まで来た。キンジーは警察に勤務し始めたころに最初の結婚をしている。相手のミッキーは一回り以上離れた刑事、輝いて見えたらしい。警官としての能力は高かったが、酒と女…
2023年発表の本書は、東工大笹原和俊准教授(計算社会科学)のディープフェイク(DF)論。筆者はDFを「ハリウッド級のメディア合成技術が民主化されたもの」と説明する。従来高度な技術・多くの時間・多額の費用を要した偽画像/映像/音声が、インターネッ…