新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

最初で最後のミステリー

 三谷幸喜という人は才人である。何年か前「清須会議」という映画を見たが、あれだけの個性的な俳優/女優を有名な歴史上の人物にあてはめ、新解釈も加えながら組み立てたストーリーは出色だった。特に鈴木京香演じるお市の方の恐ろしさが印象深い。

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 彼が20年以上前に書いた脚本「古畑任三郎」シリーズのノベライゼーションが、本書である。TVドラマとして放映されたものは24編あるが、そのうちの5編が収められている。もう1冊「古畑任三郎2」があってそこにも5編、合計10編だけが出版されている。筆者によると「これが最初で最後のノベライゼーション」とのこと。本来は脚本家であり、すでに放映したものを小説の形に書き直す時間が惜しいのだという。
 
 それでも10編を本の形にしたのは「ミステリー作家」にもなってみたいという、遊び心だったのだろう。TVドラマの方は何度も再放送されるほど人気を博した。田村正和の名演と、毎回の豪華な犯人役のゲストのおかげもあろう。
 
 犯人の側から緻密な犯罪(多くは殺人)を描き、その後一転して探偵の側から事件解決を描く形式を「倒叙もの」という。100年以上前オースチン・フリーマンが「歌う白骨」という短編集を出したのが最初と言われている。探偵役のソーンダイク教授の科学調査が、犯人を追い詰めるプロセスが特徴だった。その後犯人と探偵との心理戦を中心に据え、証言の矛盾や思わぬ齟齬を探偵が暴くシリーズがアメリカで放映された。「刑事コロンボ」である。
 
 古畑任三郎はある意味コロンボ刑事の日本版コピーだが、後者が2時間ドラマであるのに1時間に収めたところに特徴があった。スピーディなので一般のマニアでない視聴者も取り込みやすい一方、複雑なプロットは書き込めない悩みもある。もちろんそれが成功したことは明らかである。才人の「最初で最後のミステリー短編集」、なかなか面白かったです。