新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

都市インフラと軍事構想

 いつもお世話になっている地下鉄や地下街、そこにこんな秘密や歴史が隠されているとは思いもしなかった。以前NHKの番組「ブラタモリ」が東京駅周辺の地下街を特集したものを見て、歩きなれた大手町や八重洲の地下街の裏側を少し知ったのだが、本書はその何十倍も大きな秘密を暴露している。

 
 著者は何度も地下の地図を求めて管理部署の拒否にあっている。「ブラタモリ」では管理部署が公開してかまわないと思ったところだけ見せてくれたのだろう。一般視聴者にとっては、これで十分ということだったのかもしれない。

        f:id:nicky-akira:20190415220755p:plain

 
 著者は複数の地図に地下鉄路線の位置の相違があることに気づき、膨大な資料と取っ組み合って真実に迫ろうとする。これはまさに「名探偵」の手法だ。関東大震災の復興から太平洋戦争にいたる過程で、帝都東京の地下には巨大な地下空間が作られた。その一部を使って、東京メトロ都営地下鉄が営業している。そのほか知られざる地下街路がまだ隠されているだろうというのが、著者の結論である。
 
 第一次世界大戦では、すでに都市への空襲という事態が起きている。そのころから東京の地下に「防空壕」としての地下街路をつくる構想はあったと著者はいう。確かに比較的新しく開業した半蔵門線などは、核シェルターといってもおかしくないほど深々度にある。その後に開業した南北線と併せて、政治中枢の地下を走っていることも忘れてはならない。
 
 さらに重要人物が都市の中を素早くに移動できるように、専用地下道として設計・構築された可能性も指摘されている。古来、ヨーロッパの王侯貴族は別荘への移動用、もしくは非常時の脱出用に地下街路を作っていたから、それを真似たのだろうという。
 
 さらに意外だったのは、日本の鉄道(今のJR)が敷設されるとき、狭軌標準軌広軌を選択するにあたり「国防の観点から狭軌とする」という判断があったこと。戦闘用車両など重いものを運ぶとき、広軌の方が積載物のズレによる脱線の可能性が高いのだという。そういう積載をしない地下鉄は標準軌(本書では広軌とある)にできたわけだ。
 
 本書は極めて緻密な工学的考察をしていて、コンピューターしかわからないNINJAには理解できないことも多かった。これで毎日の地下鉄乗車が少し興味深いものになったのは確かです。