新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

天使と悪魔、弁舌の対決

 二人の40歳代の男性が本書の主人公である。ひとりは悪魔的な犯罪者アーロン、ウソをつかせたら右に出るものなしと称されている。もうひとりは天才的な弁護士テイト、欲があればドナルド・トランプ並みの財を成していたとある。(大統領になれるとは書かれていない)

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 テイトと別れた妻ベットの間に生まれた娘ミーガンを、アーロンが巧みに誘導して田舎町の教会に監禁することから、事件が始まる。セラピストに化けてミーガンを呼び寄せたアーロンは、彼女の深層心理に踏み込んで怒りを爆発させ、置手紙のようなものを書かせる。このプロセスの描写は凄みがある。
 
 「置き手紙」もあるので単なる失踪に見え、警察はとりあってくれない。テイトとベットは、離婚後14年経って初めてまともに口をきいて協力することになる。テイトに恩義を感じる警官、ミーガンと関係のあった英語教師、芸術家らが、失踪ではなく誘拐だと考えるテイトとベットに協力して捜査を始める。
 
 彼らを仲間に加えるにあたり、テイトは元凄腕検事の弁舌を使って、なだめたりすかしたりしながら同意を得ていく。この協力者たちは個別にアーロンに迫り、ミーガンが監禁されている教会に迫るものもいたのだが、次々にアーロンに逆襲にあって退場させられてしまう。警官が以前アルコール依存症だったことを見抜いたアーロンが、彼を巧みに誘って酒を飲ませるプロセスも、鬼気迫るものがある。飲ませてしまえばこちらのもの、アーロンは酩酊した彼を交通事故に見せかけて病院送りにしてしまう。
 
 誘拐犯のアーロンはもちろん、テイトもベットもミーガンさえも秘密を抱えていて、そのヒントになるシーンがフラッシュバックの手法で挿入されてくる。500ページの長編だが、挿入シーンが多いのでメインストーリーはたった3日間の出来事を描いているだけである。
 
 ラストは二人の心理学を応用した弁舌合戦になるのだが、少し平板な感じは否めない。結局暴力でカタを付けるしかないのだから、弁舌で雌雄がつくようなラスト(例えば法廷シーン)に持って行った方がよかったようにも思う。本書の解説は、タレントだった故児玉清が書いている。彼はジェフリー・ディーヴァーに大ファンで来日時にインタビューまでしているそうだ。
 
 解説では本書をずいぶん評価しているのだが、僕はディーヴァーの作品としては中の下、くらいの評価です。