本書(1985年発表)は、ポーラ・ゴズリングの第6作。毎回テーマやスタイルを変える作者は本当につかみどころがない。前作「赤の女」はスペインを舞台にしたラブサスペンスだったが、本書は米国北部(ラストベルト?)の田舎町にある大学で全てが完結する。「赤の女」の時にコメントしたように、「通常なら出会わない大人の男女が、事件の中で出会い協力する過程で恋が芽生える」という作者の基本パターンは、本書にも見られる。5作読んで、共通しているのはこれだけだと言ってもいい。
学期が終わった真冬の大学、文学部棟では<登録週間>というイベントを終え、1ダースの教官たちが集まってサンドイッチとシェリーくらいの、軽いパーティを開いた。それも三々五々解散となり、家に帰るもの、研究室の戻るもので会場は人気がなくなった。文学部棟の灯りはほとんどが消えてしまった。研究室に引き揚げたアダムソン教授のもとには、予期せぬ来訪者があった。彼は殴り倒された上、ペーパーナイフでめった刺しにされ、挙句に舌を切り取られた。
地元警察で捜査に当たることになったのは、はみ出し者で知られるストライカー警部補と馭者役のトスカレリ部長刑事。彼らが被害者の身辺をあたるうちに、被害者を殺したいと思っている人物は無限にいることが分かってきた。彼は無礼で傲慢なだけではなく、誰彼なしに弱みを暴いてあてこすり、挙句ゆすりもしていたらしい。
学生時代アダムソン教授の講義も取ったことのある若い教官ケイトも、教授の事は嫌っていた。しかし彼女は「学生運動」をして警官に殴られたことから、警官はもっと嫌いだった。10年前に彼女を殴った新人警官こそストライカーなのだが、ストライカーはケイトを警察の協力者にしようと接近してきた。
ストライカーとケイトがもめているうちに、両足義足のピンチマン老教授が自殺を図り、学部長が殴られた上耳を切り取られる事件が発生する。二人とも命は助かったのだが、地元新聞は「象牙の塔の見猿・聞か猿・言わ猿」事件だと書き立てた。
前作「赤の女」ほどではないが、田舎町の雪の中に跳梁する異常殺人鬼の姿は不気味で、個性的なストライカーとケイトの恋の進展も微笑ましい。つかみどころのなさには閉口しますが、作者がなかなかの書き手であることは間違いないでしょう。レギュラー探偵ものを書いてほしかったと思います。