新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

映画・原作、どちらも傑作

 作者のトマス・ハリスは本当に寡作家である。本書は「ブラック・サンデー」、「レッド・ドラゴン」に続く第三作で、この後もレクター博士もの2編を書いただけだ。しかしその作品のすべてが映画化されるなど、ミステリー界に大きな足跡を残した人である。

 

 1988年に発表され、1991年には同名の映画が封切られてこちらも大ヒットした。今回のテレワーク化によって家にいることが多くなった僕は、懐かしい映画をBS放送などで録画しておいてみているのだが、その中に「羊たちの沈黙」があった。

 

 FBIの優秀な修習生クラリスを演じたジョディ・フォスターもいいのだが、なんといっても圧倒的な存在感を誇るレクター博士役のアンソニー・ホプキンスの怪演が光る。今回は、先月紹介した横溝正史の「女王蜂」とは逆に、映画を見てから原作を読んでみた。

 

 すでに5人の女性を殺しその生皮をはいでいる猟奇殺人記は、バッファロー・ビルとあだ名されているが尻尾を掴ませない。FBIの行動科学課長クロフォードは、人手不足もあって9人を殺して隔離中のレクター博士との面談を修習生のクラリスに任せることにする。自身も危険極まりない猟奇殺人鬼でもあり異常心理学の大家でもあるレクター博士は、全く官憲に協力しないが有力な情報を持っていると考えられた。

 

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 厳重に監禁されていても平静で鉄格子(映画では透明アクリル板だった)ごしにクラリスのプロファイリングをして見せるレクター博士と、クラリスは心理戦をすることになる。彼女の子供のころのトラウマ、屠殺される子羊を抱えて逃げた記憶などを呼び覚まされる。夢に出てくる子羊が鳴かなくなった時が、彼女が過去を乗り越えた時だとレクター博士が暗示する。

 

 心理戦以外はスピーディでアクションも十分あるストーリーが展開する。5人目の犠牲者の遺体からアジアにしかいない蛾の蛹が見つかり、クラリススミソニアンの専門家を訪ねてビルの正体を暴こうとする。ビルは6人目の犠牲者として上院議員の娘を誘拐していた・・・。

 

 人間の「皮」が体重の16~18%の重さを持っていることなど、法医学や心理学など非常に多くの知識が本書の基盤になっている。作者は人前に姿を見せることがなく、情報もほとんどない。この続編「ハンニバル」も買ってあるので、いずれ読んでみたいです。