新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

「ズムウォルト」の目指した戦い

 アメリカ海軍の新鋭駆逐艦ズムウオルト級のネームシップ「ズムウオルト」が、いよいよ就役して3年になるが、相変わらず「初期不良」のせいか母港をはなれられないようだ。排水量16,000トンというのは、1世紀前の基準では「戦艦」にあたる。事実上最初のステルス軍艦であり、すさまじい火力を持っていることは、よく知られている。アメリカ海軍は、このクラスを3隻就役させる予定だ。

 駆逐艦といえば戦艦・巡洋戦艦航空母艦等の護衛艦という位置づけが従来のものだが、ズムウオルト級にはそういうミッションは考えにくい。3隻では、世界中に展開している空母打撃艦隊全てに割り振ることすらできない。空母艦隊の対空防御ならば旧来型のイージス艦があるし、空母艦隊が水上艦隊に襲われる可能性はほとんどない。空母にとってかなりの脅威である潜水艦に対しても、ズムウオルトが加わったから劇的に強固になるというわけでもない。


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 結局この船は、防御用ではなく攻撃用と考えるべきである。その運用方法を昔どこかで読んだぞ、と思って本棚を探してみた。J・H・コッブ著「ステルス艦カニンガム出撃」が出てきた。発表は1999年で、作中の時代は近未来である2006年。南極制覇に乗り出したアルゼンチン軍に対し、偶然リオデジャネイロに停泊していた新鋭駆逐艦カニンガム」が単艦で挑むと言う物語。

 主人公の女性艦長アマンダ・ギャレット中佐は、海軍の新しいドクトリンを以下のように主張して一部の幹部からうとまれたとの設定である。

 ・海軍への予算削減圧力が厳しい中、全ての紛争地に空母打撃艦隊を配備できない。
 ・空母打撃艦隊は紛争地から離れたところにで待機、紛争時に派遣する。
 ・空母打撃艦隊の到着までは、単艦もしくは小規模の奇襲艦が急場をしのぐ。
 ・奇襲艦の能力を持つ「ステルス駆逐艦」を開発して、各地に配備しておく。

 運命のいたずら(というか作者の設定)で、最初のステルス艦「カニンガム」の艦長になった彼女は、奇襲艦としてのミッションを実地にやってみせることになる。強国とは言えないまでもアルゼンチンの全攻撃機・艦艇を敵に廻して、アルゼンチンの南極制覇部隊の侵攻を止めることができるかが見所になる。

 カニンガム級駆逐艦の仕様について作中に確たる記述は無く、カニンガムの排水量や乗員数はわからない。しかしステルス性能や単装砲塔2基、垂直発射兵器などの仕様は、基本的にズムウオルトに似ている。小説の設定から10年あまり遅れて就役した最初のステルス艦「ズムウオルト」は、どのようなドクトリンで運用されるのだろうか。