本書は、作者が高校教員をしながら雑誌「海と空」に1957年から連載した小編を集めて文庫化したものである。第二次世界大戦の戦記や兵器についての著作が多い人だ。33編の内訳は、太平洋での戦いが16、地中海・大西洋での戦いが17となっている。
15ページ/編の短いものだが、有名な戦いだけでなく僕が知らなかった海戦の概要を知ることができてうれしく思ったものだ。今回は、地中海・大西洋のエピソードをいくつか紹介しよう。
◆フランス艦隊のイタリア本土砲撃
イタリアが参戦したのはフランス降伏間際の1940年6月、これに対しフランス地中海艦隊はジェノヴァやサヴォナに艦砲射撃を敢行した。重巡洋艦デュプレー、コルベールに駆逐艦を付けてジェノヴァに向かわせた艦隊は、イタリアの旧式駆逐艦の迎撃を受ける。以後フランス艦隊は全く作戦行動をとらなかったので、珍しい海戦となった。
◆艦砲で沈められた正規空母
独軍がノルウェーに侵攻した時、英国海軍が派遣した艦隊に旧式ながら23,000トン級の正規空母グロリアスがいた。燃料が少なくなったグロリアスが戦線離脱をしたところ運悪く独戦艦シャルンホルストに遭遇、砲撃で沈められてしまった。第二次世界大戦を通じて、水上艦に沈められた正規空母はグロリアスだけである。
イタリアが誇ったのは戦艦もあるが、実は快速軽巡洋艦(38ノット級)。スピード大好きの国民性が表れている。そのうちの1隻バンデ・ネレは英国巡洋艦シドニーに撃沈された。シドニーは32ノットしか出ない旧式艦だったのだが。呪いが残ったのか、この海域は以後たくさんの両軍艦艇の墓場となる。
◆「眼下の敵」のモデル
大西洋上でUボート狩りをしていた米国の旧式駆逐艦ボリーは、何隻かの敵潜に爆雷攻撃をしたが仕留められない。そのうちに新鋭艦U405を攻撃してこれを損傷させた。U405は急浮上して反撃、ボリーも銃砲撃で損傷してしまう。ボリーはU405に乗り上げてこれを沈没させたが、自らも沈没、相討ちとなった。
作者の筆は日本軍の悲劇を描く時でも淡々としていて、戦場の棋理に反することをしたり運に恵まれないと、いかに高性能の軍艦でも危ないことを示してくれます。時々本棚から出して読むこともある、懐かしい本です。