新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

シカゴの女私立探偵登場

 シカゴ在住の女流ミステリー作家、サラ・パレツキーの最初の作品が本書。同じくシカゴで活躍する女性私立探偵V・I・ウォーショースキーを主人公にした長編が、いままで18作発表されている。ウォーショースキーは名前の通りポーランド系、警官だった父親からは正義感を、イタリア人の母親からは情熱とベネチア食器を受け継いだ女性である。

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 本書の発表は1982年、まだ五大湖周辺が「ラストベルト」などと呼ばれる以前の、シカゴが舞台だ。そうはいっても、シカゴの街には暗い影がある。労働組合が強い(強すぎる)ため、産業は停滞し市民生活は向上していない。恐らくこのころから産業の空洞化が始まっていたのだろう。
 
 元弁護士で離婚経験もあるV・Iことヴィクは、この街で私立探偵をしている。亡き父親と同僚だったマロリー警部補は「早く(もう一度)結婚して、探偵業から足を洗え」というのだが、彼女は聞く耳を持たない。
 
 持ち込まれたのは、労働組合の委員長の娘と恋仲になり家出をした息子を気遣う父親からの、その娘をさがしてくれという依頼。ヴィクが娘の部屋を訪ねると、その息子が射殺されていて娘は消えていた。さらに依頼に来た男は、被害者の父親ではない別人だともわかる。娘の父親は労働組合の委員長、被害者の父親は大手銀行の幹部、これに保険会社の幹部が絡んできて大がかりな不正が行われていたことを思わせる。不信をいだいたヴィクが背景を調べ始めると、シカゴの暗黒街のボスがキバを剥いてきた。
 
 暗黒街の連中とやりあって傷を負ったヴィクは、古い付き合いの女性医師や知り合った保険会社の男ラルフに助けてもらって再起を期す。彼女が銃器店で拳銃を購入するシーンが興味深い。選んだのはS&Wの.38口径スペシャル、翻訳には8発とあるが装弾数は6発のはずだ。.44マグナムのように派手ではないが、至近距離なら十分な威力を持ち扱いやすい。
 
 シカゴらしく、時々大リーグカブスの試合の模様が挿入されている。当時本塁打王だったキングマンが34号を打ったけど負けた、などとあるのが懐かしい。ついにヴィクはカギを握る失踪した娘を見つけ、事件の原因が大規模な保険金詐欺であることをつかむ。
 
 ストーリーは決して意外性のあるのものではなく、個々のエピソードも面白いと思うかどうかは読者によるでしょう。この2点が〇から△だとしても、文体や表現のキレの良さは◎だと思いました。主人公も魅力的ですし、新しいシリーズものとして書棚に加えてもいいと思います。続きが楽しみです。