新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

首相の「師・友・秘書」

 若くして政治を志し、僕らには分からない苦労を背負って政治家/国会議員を務めるなら、目標は大臣さらには総理大臣なのだろうと思う。首相のイスへの長いレースはもちろん、幸いにもそのイスに座ってからも孤独な闘いは続く。そんな日々を支えてくれるのは、家族だけでは足りない。ブレーンとか指南役とかいろいろな言い方はあろうが、一芸に秀でた協力者は不可欠である。

 
 作者の大下英治は、政界・財界・芸能界のルポルタージュや内幕小説を得意とする作家である。本書のように政界の裏話を何冊か読んだが、「魔性のシンデレラ」という松田聖子ストーリーも書いていて、幅の広い作風だと思う。

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 本書は政界でもそのど真ん中、何人かの首相を支えた影の人を紹介している。その一人目は、中曽根首相と座禅を共にした四元義隆、三幸建設社長である。薩摩示現流の遣い手で、戦前テロ事件に加担し実刑まで受けている。しかし近衛文麿以下、吉田茂から大平正芳に至るまで歴代首相の相談相手になっている。少数派閥ながら長く首相を務め、国鉄改革などを成し遂げた中曽根内閣には「心の師」として協力したようだ。
 
 二人目は、今太閤と呼ばれた田中角栄の「刎頚の友」入内島金一。同郷で田中の「田中土建工業」の監査役も務め、土地ころがしで政治資金を捻出する田中のいくつもの疑惑に加担し、収監もされている。最後まで田中を守った友と言える。
 
 三人目は、竹下登が国会議員初当選したころからの秘書、青木伊平。田中派を割って自派閥を作り、竹下を首相に押し上げたのがこの人物であることは明らかである。なにしろ叩き上げの秘書出身の鈴木宗男が尊敬する秘書として名前を挙げたひとである。最後は疑獄事件の中、自殺を遂げる。
 
 今の国会で騒がれている「忖度問題」などとはレベルの違う人たちである。是非はともかく、権力の周りにはものすごい人たちがいたことを、近世の歴史にも見ることができた。正直、今の政治状況はクリーンになったと思う反面、スケールが小さくなったと思う。それとも、水面下では同じようなスケールの暗闘が続いているのでしょうか?