本書は先年亡くなった中曽根元総理の、非常に短い回顧録である。小泉内閣時代の2003年に55年以上続けた衆議院議員を引退、その翌年に本書が発表されている。「引導を渡した」小泉総理への恨み言も書かれているが、85歳まで政治の一線におられたのだから引き時だったと思う。
2001年の自民党総裁選、小泉候補は著者の意に沿う、以下の公約をして当選を果たした。
・首相公選制
・安全保障体制の改革、特に集団的自衛権の行使
しかし著者によると、改革に反対する人たちを「抵抗勢力」と決めつけ世論調査の支持率を中心に据える「ポピュリズム政治」に堕しているということだ。上記の公約に取り組まず、郵政や道路公団民営化ばかりに血道をあげているから、著者としては裏切られた思いが強いようだ。
もちろん保守本流の政治家として、当時歴代3位の長期政権を担った人なので、勉強になる記述は多い。外交について、大東亜戦争の反省を踏まえ4原則を提唱している。
1)自分の力以上のことはしない
2)ギャンブリングで外交をするな
3)内政と外交を混同して利用しあうな
4)世界の正統的潮流にのるべし
特に北朝鮮に対しては、
1)拉致、核、ミサイル、不審船などを包括解決
2)韓国との国交回復時以上の条件はつけない
3)拉致、核等を解決してから次に進む
4)経済協力は最終段階
5)米国、韓国と一体で国交正常化を果たす
の手順・条件だと言っている。これは現在に至るも、あるべき方針と言えるだろう。
特に憲法改正については、
・天皇を象徴から象徴としての元首に位置付ける
・防衛軍を明記する
・非常事態条項、政党条項を加える
・憲法改正手続きの緩和
と具体案を記している。憲法(9条)を改正し、国家安全保障基本法を作って核抜きの戦力強化を図るべきとも主張している。
全体として熱意のあまり(?)戦争中の話や戦死した友人の話、国家への忠誠など、少し鼻白むエピソードや主張も多い。特に教育基本法はGHQに押し付けられたもの、早々に改正しないと国民の心が侵されるとの主張には、僕の理解不足もあろうが全面賛成はできない。
小泉内閣はもちろん昨今の安倍内閣でも、国際社会ではちゃんとした政権と思います。トランプ政権の迷走ぶり、ポピュリズムを見たら、著者はどう思われるのでしょうか?