新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

大人の童話ミステリー

 クレイグ・ライスは、アメリカの女流ミステリー作家。ユーモアとペーソスにあふれる作風で、独特の地位を築いた。その特徴が非常に良く著わしているのが本書。原題の「Home Sweet Homicide」は、もちろん「Home Sweet Home」のもじり、Homicideというのは殺人の意味である。


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 ありきたりな田舎町、敷地の広い一戸建てが並んでいる。そのうちの一軒に、シングルマザーのミステリー作家マリアンが住んでいる。一緒に暮らしているのが、ダイナ(14歳)、エープリル(12歳)、アーチー(10歳)という3人の子供たち。マリアンは、タイプライターに向かうと全てを忘れてしまう。ダイナとエープリルの姉妹は、弟アーチーを使いながら料理をし、掃除をし、洗濯もして家族の生活を守っている。
 
 そんなある日、隣のサンフォード家で銃声がし、女主人のフローラが死体となって発見される。夫のウォーリーは行方不明である。アーチーたち3人は発砲直後に隣家に潜入、女優ポリーの不審な行動を目撃するなど、いくつかの手掛かりをつかむ。3人は駆けつけたスミス警部率いる警官隊には本当のことを話さず、独自の捜査を開始する。もし事件を解決できたならそれを母親マリアンの手柄にしよう、そうしたら母親のミステリーがもっと売れ家族で過ごせる時間が増えるかもしれないと思ったから。
 
 慎重なダイナ、機略溢れるエープリル、行動力に優れるアーチーの3人は時には反発したり、協力したりしながら、母親のミステリーを読んで学んだ手法を使って事件を追う。サンフォード家に忍び込んで見つけた古い手紙の束からフローラが強請り屋だったことが分かり、殺人の容疑者は強請られていた人たちの中にいるだろうと思われた。
 
 探偵役ではあるがそこは子供、刑事にアイスクリームをごちそうされて姉弟を裏切りそうになったり、弁護士に「嬢ちゃん」と呼ばれてむくれたりしている。全体の1/3くらいは、そんな他愛のない子供同士の口喧嘩である。やがてマリアンが作家になる前、記者だった時代に関わった娘の誘拐殺人事件が今回の事件の背景にあることも分かってくる。一方、好漢スミス警部を家に招き、母親の結婚相手にしようと画策する3人の努力が涙ぐましい。その目標のためなら、事件解決は棚上げにしてもいいと言わんばかりだ。
 
 そんなホームドラマ仕立ての中で、事件の真相が明らかにされる。事件の謎はそれほど意外なものではないのだが、何しろ読んでいて僕が吹き出してしまったミステリーは初めて。驚くのは、こんなのんびりしたミステリーが、第二次世界大戦中の1944年に発表されたことです。とても日本にはまねのできないことでしたね。