堺屋先生の本に「平成30年」という未来予想書があって、「失われた三十年」になるぞという警告本だった。不幸なことだが、その予想の多くは的中してしまったようだ。本書は、その30年間を2人のジャーナリストが総括したもの。先日他界された「歴史探偵」半藤先生の本はたくさん読んだが、NHKキャスターだった池上氏の本は初めてだ。本書は2人の対談の形で進む。
平成元年に半藤先生はまだ文芸春秋の現役役員、世はバブル真っ只中で銀座で呑み歩き、同伴の女性をタクシーで東京を縦断して送ったと武勇伝を仰る。しかしそこから政界・官界・財界の劣化が始まったとのこと。
まず政界だが、リクルート事件で「政治にカネがかかる」との反省があり小選挙区ならカネがかからないはずと「政治改革」をやったこと。選挙区が広いと余計にカネがかかるという発想自体がおかしいのだが、結局はそうなった。結果、党本部に選ばれないと議員に成れないのだから、本部が大きくなって議員が小物になった。
次に官界、バブルのころまでは官僚が線路を引きその上を産業界が走るという形で順調に戦後復興を果たしてきた。しかし経済がグローバル化し、官僚主導ではうまくいかないことが多くなった。そこで民主党の小沢幹事長らが「官僚頼むに足らず、政治主導で行く」と、官僚をスポイルしはじめた。
最後に産業界、これもバブルに浮かれて海外に無謀な投資をし、そのほとんどが失敗。さらに日銀三重野総裁がバブルつぶしに血道をあげたこともあって、産業界全体が委縮したという。小泉・竹中改革で非正規労働者を増やしたことも批判されているが、この点については僕には異論がある。
IT業界については、米中がGAFAやBATを育成できたのは両国に「金儲けに拍手する文化」があったからだという。逆に日本には金儲けを卑しいと考える文化があって、例えば村上ファンドやライブドアを国策捜査で叩いたのがGAFAのような企業が日本で出なかった原因だとある。
平成の時代を表わす三題噺としては、一般のアンケートでは、災害・平和・インターネットだとある。災害は確かに多かったし、インターネットの爆発的普及は衆目の一致するところ。しかしお二人は「平和」だったのは国内だけで、世界は宣戦布告なき戦争の時代になったと警鐘をならす。
ジャーナリストの目に30年に及んだ「平成」がどう映ったか、改めて確認できました。