新城彰の本棚

ミステリー好きの自分勝手なコメント

ビジネス上手な私立探偵

 本書の発表は1935年、アメリカで本格ミステリーが開花したころの発表である。作者のレックス・スタウトは、これが二作目。「毒蛇」でデビューしたのは、蘭と美食を愛し恐らくは120kgを超える巨体をもてあます私立探偵ネロ・ウルフとその助手アーチー・グッドウィンである。


        f:id:nicky-akira:20190424204223p:plain

 
 いにしえのミステリー手法に則って、わたしというのが探偵助手のアーチー君。ほとんど立ち上がることも難しいウルフを援けて「活動派探偵」の面目躍如の活躍をする。蘭というのは種類が大変多く、個性も豊かだ。好む環境も微妙に違う。ウルフはニューヨークのアパートメントのペントハウスに、住居と蘭を育てる温室を作って、蘭と美食に囲まれた生活をしている。
 
 ウルフは私立探偵のタイプとして、ポアロともフィリップ・マーロウとも異なる。エピキュリアン的生活を維持するには、大量のお金をかせがなくてはいけないから、ビジネスの面が強くなる。だから、犯人を捜したり事件を解決したり、ヒロインを救ったり・・・は二の次で、お金をいかに稼ぐかを工夫・注力することになる。
 
 本書では25年前にハーバード大学の新入生いじめで足が不自由になった男に対し、責任を感じた20人以上の先輩たちが「贖罪同盟」を作って支援をしてきたことから始まる。
 
 「贖罪連盟」の2人が死亡し、1人が行方不明になる。メンバーにその足の不自由な男から、脅迫文ともとれる「詩」が送られてきて、同盟メンバーは震え上がる。ハーバード卒ということで、政治家・医師・教授・株式仲買人など富裕な人もいれば、タクシー運転手や個人商店主で経済的に余裕のない人もいる。ウルフは彼らの不安を取り除くことを約束し成功報酬を要求する。報酬はメンバー毎の所得に見合ったもので、5ドルの人もいれば、7,000ドルの人もいる。
 
 最後の50ページで事件は解決するのだが、ウルフは犯人を告発するより上記の報酬を得ることに注力する。結果として犯人を挙げることになるのだが、そこに至るプロセスも皮肉たっぷりなものだ。読者もウルフがどうやって報酬を得るかに興味を持つかもしれない。
 
 美食探偵といいながら、そんなに料理の細かな描写はありません。正直「守銭奴」のような私立探偵が主人公ですが、ユーモアとアイロニーの入り交じった本格ミステリーです。